アイデアの具現化

ノーベル物理学賞の受賞理由となった青色LEDの実現は1985年だが、実は78年、赤崎教授は松下電器時代に通産省のプロジェクトで青色LEDを実現していた。しかし、その時には非常に細かな作りこみを行ったフリップチップ構造のMIS型青色LEDであったため、電気的特性にバラつきがあり、歩留まりも悪かったため、実用化しなかった。その後、2度目の名古屋大学で窒化ガリウム単結晶を実現し、今回の受賞理由になったpn接合の青色LEDを開発する▼つまり、社会を変えるほどのイノベーションを生み出すのは、複雑で特殊な研究成果ではなく、非常にシンプルな成果であるといえる。例えば、山中伸弥教授のiPS細胞にしても、4因子を導入するだけで細胞が初期化するというシンプルなものであり、野依良治氏や鈴木章氏、根岸英一氏などの化学合成プロセスも非常にわかりやすい▼こうした真実にたどり着くには、相当な時間と労力、そしてその量に比例して与えられる幸運が必要である。また、そのベースとなる着想を得るためには、アイデアになる前のアイデアのようなものを具現化する必要がある。それは研究費の申請書に書けるようなものではなく、モヤモヤとしたアイデアに具体的な姿を与えていくための作業だ。ある意味、イノベーションには最も大切なモノかもしれない▼近年、基盤的な経費が激減し、研究費をとれなければ研究どころか学生教育すらままならなくなっている。この状態が続けば、新たな発想のタネは尽き、20年後、30年後には日本からノーベル賞受賞者が生まれることはなくなってしまう。ノーベル賞受賞に湧く今だからこそ、基盤について考えるべきだろう。