28年3月4日号

安達千波矢・九州大学主幹教授の研究成果をベースにしたベンチャーが順調に動き出した。将来が非常に楽しみだ▼安達教授の開発したTADF(熱活性化遅延蛍光)材料は、これまでのイリジウムを使った燐光材料と違い高分子だけで構成されているため、製造コストが10分の1と価格競争力があり、また燐光材料ではできていない深い青色も実現している。非常に産業応用に向いた研究成果であるが、実は非常に基礎的な研究を大切にしたことで生み出されたものだ▼有機EL発光には、ホールと電子の一重項結合による蛍光、三重項結合による燐光があり、それぞれ入力エネルギーの25%、75%が発光する。エネルギー準位が違うため、第1世代は25%の蛍光、第2世代は75%の燐光を発光させるのが基本的な原理である。第2世代有機ELの開発では、イリジウムを入れることで、燐光を100%出力にすることに成功したため、世界中の研究者が有機EL材料の開発は青色発光を除いて終了したものと考えた。しかし安達教授は、量子化学の基本原理にまで立ち戻って、高分子の設計を最適化することで、蛍光で100%出力が可能になると考え、学生とともに試行錯誤を繰り返しTADFを実現した▼この開発には、2つの重要なポイントがある。1つは、物理の基本原理まで立ち戻って研究課題を見直したこと。これこそが基本的な学理を追求する基礎研究の重要性を示している。もう1つは、教授の考えを素直に信じて研究の取り組む学生がいたことだ。これが30~40代の研究者であれば、常識にとらわれ、何百回も実験を繰り返すようなことはしなかったであろう。学生こそが大学の研究組織としての強みといえる。