29年8月11日号

米国の大学と同じように、ベンチャー企業のIPOで国立大学が独自財源を構築することができるようになるかもしれない▼文部科学省は1日、国立大学や大学共同利用機関が、大学発ベンチャーを支援する業務などの対価として、現金ではなく株式や新株予約権を受け取れることや、それらの株式や新株予約権を適切なタイミングで売却できるとする通知を出した▼これまで国立大学が株式を取得するのは、寄付あるいはライセンスの対価、または出資業務ができる4大学(東北大、東大、京大、阪大)が自らの大学発ベンチャーを支援する投資会社の株式に限られていた。寄付やライセンスの対価として得た株式は、換金可能になった時点で売却しなければならなかった▼1日からはこうした制限が撤廃され、例えば、研究施設やインキュベーション施設の使用料やコンサルタント料などの対価として、ベンチャーの株式や新株予約権を獲得できるようになった。ベンチャーにとっては現金の支出を抑えることができるため、事業展開が容易になり、大学にとってはベンチャーが成功した場合に大きな収入を得られる▼これまで国立大学等には、法律上・政省令上の様々な制限がかけられていた。にも関わらず、財政当局などは自己収入を増やして自立すべきとして運営費交付金を減らし続けてきた。今回の通知は、この自己矛盾を解消するための第一歩となるもので、今後、研究開発力強化法の改正や税制改正などを通じて、さらに自由が与えられるようになる▼様々な制限が撤廃されるということは、言い訳のできない状況になるということでもある。各大学には運営から経営への脱却が求められる。

29年8月4日号

どうしてこうも利用者が急速に増えたのか、とにかくすさまじい勢いでスマートフォンが世の中に普及してしまった▼CIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)という、ICT産業を代表する業界団体が毎年モバイル通信端末の利用実態調査を行っている▼7月末に2017年度版の調査結果が発表されたが、1台目のモバイル端末としてスマホを利用している人は、調査対象者の90・7%にも及んでいるという結果だ▼従来の携帯電話端末(フィーチャーフォン)の利用者は9・2%。他は、タブレットが0・2%(回線あり、Wi-Fiのみの合計)である▼便利だから利用者が増えるのだろうが、とにかく街中スマホ一色である。しかし、そこで気になるのが「歩きスマホ」の迷惑ぶりだ▼公共機関が駅構内やホームなどでの禁止を盛んに呼びかけているが、一向に減る気配はない▼なぜ減らないのかと考えると、携帯端末は、電話にしろプレーヤーにしろ、元来が歩きながら使うことを想定してつくられたからだと思う▼しかし、あまりにも増えすぎて「歩きスマホ」が社会的に害をなすようになったので、公共的にそれをやめるよう呼びかけることになったのだろう▼CIAJでは、この「歩きスマホ」についても調べている。この行為をやめない理由として「誰にも迷惑をかけていない」が50・8%、「ごく短時間の歩きスマホはやむをえない」が42・5%などとなっている▼モバイル事業者が提供する「歩きスマホ防止アプリ」については、その認知度が39・0%。しかし「使ったことがない」が91・2%という調査結果である▼そこでひとつモバイル事業者などに提案。「歩きスマホ防止アプリ」を使ったら、使用回数や使用時間に合わせて何か得するポイントを付与するというのはどうだろうか。

29年7月28日号

こう暑い日が続くと体がまいってしまい、大切な食事でもおろそかになりやすいものだ。特に朝食である▼以前、朝食を抜いた子供たちが授業などで集中力を欠き、切れやすくなることや、朝食を食べない食習慣が肥満をもたらすといった報告がなされたことはあったが、改めて朝食の重要性を指摘する研究報告が米国の脳卒中専門誌に発表されている▼それは日本人と朝食の摂取頻度と心臓病や脳卒中発症の関係を示したものである。45歳から74歳までの成人約8万2千人(男性約3万8千人)が対象で、朝食の摂取頻度を週0~2日、3~4日、5~6日、毎日の4グループに分けて解析している▼その結果によると、毎日朝食を食べるグループと比べて、0~2日のグループでは、心臓病の発症率で14%、脳卒中では18%と統計的にも有意の増加率となっている。しかも脳出血では発症リスクが36%高まるというのだ▼これについて専門医によると「朝食をとらないことによる空腹感が昼食時まで維持され、昼食時の空腹感と相まって大量に食べてしまう。すると血糖値を正常に保とうと、急激にしかも大量にインスリンが血管内に放出され、血管を傷つけやすくなって脳卒中などの生活習慣病の発症リスクが高まるものと考えられます」と指摘する▼人間には生体リズムがあり、どこかに不規則なことが起きると、それを補い健康を維持しようとする。毎朝しっかりと食べることは、1日のリズムを保つためだけでなく重篤な病気を防ぐためにも必須のようだ。

29年7月21日号

九州など各地を襲った大雨は、山の貯水機能を麻痺させ、河川を氾濫させて、流域に多大な被害をもたらした。いまだ行方不明者の捜索も続き、あちらこちらで山の斜面が崩れ落ちている様子、生活の場が土砂に覆われしまっている被災地を目にすると胸が痛む。近年、異常な量の降雨(例えば1日に平年の1カ月分の雨が降る)が多くなっている。日本だけでなく、世界各地でも、こうした異常気象が起きている▼国内では様々な場所にセンサが設置されるようになった。商業施設や公共施設等の監視カメラ、海底の地震計など、様々な場所がセンシング(計測)対象になっている。宇宙から地上を、あるいは上空の気象をセンシングできる人工衛星もいくつか存在している。これらの情報を集約して、地上で起こる異常気象に対応する試みが増えつつある。東日本大震災後から気象庁では、より緊急性を高めた発表、避難の仕方を繰り返し伝えるようになった。また、指定河川洪水予報で水位危険度レベル、土砂災害警戒情報も地図で一目でわかるように公開している。今回の九州北部豪雨では、防災科研などの研究機関も降雨情報等を解析し、現地対策本部を支援している。内閣府ImPACTでも、孤立地域の道路の崩落状況等をドローンで撮影し、復旧を支援した▼こうした取り組みもあり、科学の力(センシングや解析)で自然災害の被害を多少は軽減できるようになってきた。日本は様々な自然災害に見舞われる希有な場所に立地している。この厳しい環境から生まれた先進的な災害対策の知見は国内だけでなく、自然災害が多発しているアジアをはじめ世界各国で活用されていく必要がある。

29年7月14日号

ATR(国際電気通信基礎技術研究所)を中心とする研究グループが開発したニューロフィードバック技術の精神疾患治療に向けた開発が進んでいる。その一つがAMED-DecNef多精神疾患データベースの構築である▼鬱病、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、強迫性障害、疼痛などの患者および健常者の安静時脳機能画像を昨年度までに1928例収集し、今年度中には約2200例が集まる予定。安静時のfMRI全脳画像を解析することで、画像としての精神疾患のバイオマーカーを見つけ出すのが目的だ。従来型の人工知能では、10万人の脳画像データが必要であったが、DecNefを用いることで、より少ない画像からも特徴量を抽出することができる▼このプロジェクトで肝になるのが画像データである。ATRでは2013年に撮像統一プロトコルを策定し、日本の標準となっている。しかし、9人の学生が12施設を訪問し、自らの安静時の脳画像を撮像するトラベリング・サブジェクト撮像を実施したところ、撮像プロトコルと機種で安静時のデータが分かれてしまった。つまり、ほとんどの疾患の差より、健常者の個人差、施設間の2種類(機械、被験者)の方が大きいことが明らかになった▼一方、ビッグデータの獲得は難しいものの、少数サンプルでも診断につながるアルゴリズムを開発し、自閉症スペクトラム症のバイオマーカーが開発できたほか、自閉症と統合失調症の重なりに関する関係も検証できた▼最近、ディープラーニングにばかり注目が集まっているが、本当に役立つものが何なのか、もう一度見直す必要があるだろう。

29年7月7日号

AI(人工知能)の技術発展が急速に進み、深層学習に基づく応用なども盛んで、様々な実用化が進んでいる。情報通信研究機構(NICT)が開発した、ニューラル機械翻訳(NMT)もその一つである▼これは、脳の神経回路を模したニューラルネットワークを用いた自動翻訳技術で、膨大な対訳データを使って学習したニューラルネットワークを使って翻訳する▼この技術は、従来の統計翻訳(SMT)技術よりも翻訳精度が大幅に改善されているのが特徴であり、NICTが開発して公開しているスマホ用の音声翻訳アプリ「VoiceTra(ボイストラ)」に組み込まれている▼このアプリは、Web上の「VoiceTra」(http://voicetra.nict.go.jp/index.html)から無料でダウンロードして、誰でも利用できる▼先日、NICTは翻訳精度を一層改善した「VoiceTra」を公開したが、9割前後の翻訳精度を達成しているというからすごい。これも、膨大な対訳文を学習することができるAIの進化の成果である▼ところで、進化が著しいこのAI技術を社会実装する応用例として、ATM(現金自動預払機)への活用による、振り込め詐欺防止対策というのはどうだろうか▼65歳以上の高齢者がATMを使って、ある一定額以上の大金を引き出そうとした際に、ATMと接続されたAIがこれを監視し、その高齢者とAIが対話して、振り込め詐欺でないか家族などに再確認するよう求めたりし、被害防止につなげるという活用である▼AIに多くの振り込め詐欺症例を学習させて監視させれば、現金を引き出そうとする高齢者との対話から、これは怪しいという判断をすることができるのではないか。これを、AIとつながったロボットにさせる方法も考えられる。

29年6月30日号

米国のトランプ大統領は6月1日、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を正式に表明した▼トランプ氏は、もともと事あるごとに離脱をちらつかせていたが、それが現実となると何か虚しさを、いや怒りさえ覚える。米国は、中国に続く世界で第2位の温室効果ガスの排出国であり、オバマ前大統領は地球温暖化対策にはかなり熱心に取り組んできただけに、この落差ははかり知れない▼「アメリカ第一主義」で、これから自国の産業の保護だけに走り、化石燃料を燃やし、温室効果ガスを排出し続けるのだろうか。そんなことが許されないのは自明の理ではないのか。一応、米国も国内の優先順位に従い、強い経済と健全な環境を両立させつつ、協定の枠外から引き続き温暖化対策に取り組むことにはなっているが、米国内でも失望の声が上がっている▼12日の主要7カ国(G7)環境相会合では、「パリ協定の実施に向けて連携を図る」とする共同声明を採択した。これにより米国との深刻な対立は防げたとの認識がある一方で、すでに独仏伊と英、カナダ、日本との足並みの乱れがあらわとなっている。これに対しては国連環境計画(UNEP)のソルハイム事務局長が「最大の成果は、ホワイトハウスで何が起きようが、日本、欧州、カナダの6カ国が温暖化対策で前に進むと決意したことだ」と強調した▼この決意を無駄にしないためにも、パリ協定は効果的な手段であることを世界が共有することが大切だ。

29年6月23日号

多摩六都科学館は先日、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構と相互協力協定を締結した。機構は同大学の近隣の附属農場、附属演習林等を含み2010年に教育研究施設として改組し設立された。両者の最寄り駅は共に西武新宿線の田無駅である▼同科学館は昨年、年間来館者数が25万人を超え、過去最高となった。古いデータだが、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が07年に発表した「科学館・博物館の特色ある取組みに関する調査」によると、年間来場者数が10万人以上の全国の科学館等は全体の35%であり、取り組みは一定の成果をあげているといえる▼その中でも同科学館は、高性能のプラネタリウムを備え、子ども向けの各種体験学習プログラムが日常的に行われている。以前から機構と連携して演習林や農場を利用したサマースクールや大人を対象とする体験学習会などが以前から行われてきた▼科学館をはじめとする博物館には、重要な機能として生涯学習の場・機会の提供がある。政府は子どもの理科離れを防ぐ取り組みを展開し、一定の成果をあげている。一方、困難さは理解できるが、大人の科学リテラシー向上を目指す取り組みは少なく、地域格差も大きい。我々の周囲に科学・技術はあふれ、利用しているにも関わらず、その内容を知る機会は少なく、結果として多くの人がニセ科学に疑問ももたないということは恐ろしいことであり、不幸なことだ▼誤解を起因とした教育・研究に対する無理解には様々な要因があるが、こうしたこともその一つかもしれない。