29年7月14日号

ATR(国際電気通信基礎技術研究所)を中心とする研究グループが開発したニューロフィードバック技術の精神疾患治療に向けた開発が進んでいる。その一つがAMED-DecNef多精神疾患データベースの構築である▼鬱病、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、強迫性障害、疼痛などの患者および健常者の安静時脳機能画像を昨年度までに1928例収集し、今年度中には約2200例が集まる予定。安静時のfMRI全脳画像を解析することで、画像としての精神疾患のバイオマーカーを見つけ出すのが目的だ。従来型の人工知能では、10万人の脳画像データが必要であったが、DecNefを用いることで、より少ない画像からも特徴量を抽出することができる▼このプロジェクトで肝になるのが画像データである。ATRでは2013年に撮像統一プロトコルを策定し、日本の標準となっている。しかし、9人の学生が12施設を訪問し、自らの安静時の脳画像を撮像するトラベリング・サブジェクト撮像を実施したところ、撮像プロトコルと機種で安静時のデータが分かれてしまった。つまり、ほとんどの疾患の差より、健常者の個人差、施設間の2種類(機械、被験者)の方が大きいことが明らかになった▼一方、ビッグデータの獲得は難しいものの、少数サンプルでも診断につながるアルゴリズムを開発し、自閉症スペクトラム症のバイオマーカーが開発できたほか、自閉症と統合失調症の重なりに関する関係も検証できた▼最近、ディープラーニングにばかり注目が集まっているが、本当に役立つものが何なのか、もう一度見直す必要があるだろう。

29年7月7日号

AI(人工知能)の技術発展が急速に進み、深層学習に基づく応用なども盛んで、様々な実用化が進んでいる。情報通信研究機構(NICT)が開発した、ニューラル機械翻訳(NMT)もその一つである▼これは、脳の神経回路を模したニューラルネットワークを用いた自動翻訳技術で、膨大な対訳データを使って学習したニューラルネットワークを使って翻訳する▼この技術は、従来の統計翻訳(SMT)技術よりも翻訳精度が大幅に改善されているのが特徴であり、NICTが開発して公開しているスマホ用の音声翻訳アプリ「VoiceTra(ボイストラ)」に組み込まれている▼このアプリは、Web上の「VoiceTra」(http://voicetra.nict.go.jp/index.html)から無料でダウンロードして、誰でも利用できる▼先日、NICTは翻訳精度を一層改善した「VoiceTra」を公開したが、9割前後の翻訳精度を達成しているというからすごい。これも、膨大な対訳文を学習することができるAIの進化の成果である▼ところで、進化が著しいこのAI技術を社会実装する応用例として、ATM(現金自動預払機)への活用による、振り込め詐欺防止対策というのはどうだろうか▼65歳以上の高齢者がATMを使って、ある一定額以上の大金を引き出そうとした際に、ATMと接続されたAIがこれを監視し、その高齢者とAIが対話して、振り込め詐欺でないか家族などに再確認するよう求めたりし、被害防止につなげるという活用である▼AIに多くの振り込め詐欺症例を学習させて監視させれば、現金を引き出そうとする高齢者との対話から、これは怪しいという判断をすることができるのではないか。これを、AIとつながったロボットにさせる方法も考えられる。

29年6月30日号

米国のトランプ大統領は6月1日、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を正式に表明した▼トランプ氏は、もともと事あるごとに離脱をちらつかせていたが、それが現実となると何か虚しさを、いや怒りさえ覚える。米国は、中国に続く世界で第2位の温室効果ガスの排出国であり、オバマ前大統領は地球温暖化対策にはかなり熱心に取り組んできただけに、この落差ははかり知れない▼「アメリカ第一主義」で、これから自国の産業の保護だけに走り、化石燃料を燃やし、温室効果ガスを排出し続けるのだろうか。そんなことが許されないのは自明の理ではないのか。一応、米国も国内の優先順位に従い、強い経済と健全な環境を両立させつつ、協定の枠外から引き続き温暖化対策に取り組むことにはなっているが、米国内でも失望の声が上がっている▼12日の主要7カ国(G7)環境相会合では、「パリ協定の実施に向けて連携を図る」とする共同声明を採択した。これにより米国との深刻な対立は防げたとの認識がある一方で、すでに独仏伊と英、カナダ、日本との足並みの乱れがあらわとなっている。これに対しては国連環境計画(UNEP)のソルハイム事務局長が「最大の成果は、ホワイトハウスで何が起きようが、日本、欧州、カナダの6カ国が温暖化対策で前に進むと決意したことだ」と強調した▼この決意を無駄にしないためにも、パリ協定は効果的な手段であることを世界が共有することが大切だ。

29年6月23日号

多摩六都科学館は先日、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構と相互協力協定を締結した。機構は同大学の近隣の附属農場、附属演習林等を含み2010年に教育研究施設として改組し設立された。両者の最寄り駅は共に西武新宿線の田無駅である▼同科学館は昨年、年間来館者数が25万人を超え、過去最高となった。古いデータだが、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が07年に発表した「科学館・博物館の特色ある取組みに関する調査」によると、年間来場者数が10万人以上の全国の科学館等は全体の35%であり、取り組みは一定の成果をあげているといえる▼その中でも同科学館は、高性能のプラネタリウムを備え、子ども向けの各種体験学習プログラムが日常的に行われている。以前から機構と連携して演習林や農場を利用したサマースクールや大人を対象とする体験学習会などが以前から行われてきた▼科学館をはじめとする博物館には、重要な機能として生涯学習の場・機会の提供がある。政府は子どもの理科離れを防ぐ取り組みを展開し、一定の成果をあげている。一方、困難さは理解できるが、大人の科学リテラシー向上を目指す取り組みは少なく、地域格差も大きい。我々の周囲に科学・技術はあふれ、利用しているにも関わらず、その内容を知る機会は少なく、結果として多くの人がニセ科学に疑問ももたないということは恐ろしいことであり、不幸なことだ▼誤解を起因とした教育・研究に対する無理解には様々な要因があるが、こうしたこともその一つかもしれない。

29年6月16日号

科研費審査システムの改革がいよいよ本格的に始まる。9月の公募からは、審査区分・審査方式が全面的に改定される▼そもそも科研費システムを改革しなければならない背景には、学問領域の細分化とそれを再構築することで研究の新たな展開を図っていくという世界的な動きがある。科学技術・学術政策研究所が2年ごとに公表しているサイエンスマップでは、被引用数が高いトップ論文で構成されるホットな研究領域を共引用関係から抽出しているが、ここ数年、新たな研究領域が増加し、2002年から14年では41%も増えている。例えば、生命科学とナノサイエンスの間には多くの研究領域群が生まれてきた▼問題は、こうした研究領域群における日本の存在感が低下しているということだ。領域を先導するコアペーパーにおける参画数とサイティングペーパー(トップ10%論文)における参画数の比をみると、日本が43%であるのに対して英国は69%、ドイツは63%となっている。つまり、日本の研究者が先導者ではなくフォロアーになっている割合が高いということだ▼では、どうしたら世界を先導できる領域を切り拓くことができるのか。そのキーワードが「融合」である。学問領域間の融合、異なる価値観の融合。分科細目表が廃止され、大中小の区分に分け、さらに小区分で申請数が多い場合はキーワードではなく、機械的に分割する。2段階書面審査や総合審査も異なる視点を審査に導入するためのものだ▼一番の問題は、研究者自身の姿勢である。科研費審査はピアレビューで行われるため、審査する側と申請する側がともに今回の改革の意義を理解し、それぞれ実践することができるかが改革の成否を決める。

29年6月9日号

最近、将棋のプロ棋士である佐藤天彦名人がコンピューターソフトと勝負したり、世界最強といわれる中国囲碁棋士の柯潔九段が人工知能と勝負したりして、いずれも人間が負けるというニュースが相次いだ▼ついにAIが人間を超える時代が来たのかといった報道などもあり、ショッキングな話として受け止めた人もいるだろう。一定ルールの中で行われるゲームの世界とはいえ、ゲームソフトやAIの進歩に驚きを隠せない気持ちである▼いま様々なコンピューターゲームが登場して、若者から高齢者までがスマホなどを使い楽しむ時代となった。ゲームソフトと人間の攻防が繰り返され、常に進化を続けるゲームソフトの開発が続けられてきた結果でもある▼今回の将棋と囲碁の勝負結果が、そうしたコンピューターと人間の戦いに終止符を打つのかどうかは分からないが、AIやゲームソフトが、娯楽のレベルを超えて進化してきたことを意味するのは間違いないだろう▼一方で、こうしたコンピューターやAI、ICTの急激な進歩を背景に、モノとモノをネットでつなぐIoTや、AIなどの最先端技術が今注目され、ICTを活用した超スマート社会を目指そうと国を挙げた取り組みが始まっている▼しかし、コンピューターやAIがどれだけ進化しても、主役は人間そのものであるはずだ。ゲームの世界では、AIやコンピューターは人間と戦うため、人間の能力を超えるということに開発の目標がある▼一方の超スマート社会では、AIやコンピューターは人間の豊かで安心安全な生活を支援することに意味がある。人間の能力を超える超えないは目標ではない▼そうした視点でAIやコンピューターを開発していくことが、超スマート社会実現に大事なことだ。

29年6月2日号

膵臓ってどんな臓器なのか。食物の消化を助ける膵液やインスリンなどのホルモンを生産している臓器だということくらいはご存じの方も多いことだろう▼では、どんな形をしていて、体のどこにあるのかというと筆者を含めてだがあやふやになってくるのではないだろうか。まず位置だが、胃と背骨の間に目立たないように収まっている。形といえばピーマンに似ていて、膵頭部(ヘタの部分)は十二指腸に囲まれており、膵尾部は脾臓と結ばれている▼ところで膵臓といえば、いま膵臓ガンが増え続けている。問題は死亡者数で、厚生労働省のデータによると2001年に男性約1万人、女性約8千9百人だったものが、15年には約1万6千人、1万5千人となり、現在、新規患者数でも死亡者数でも肝臓ガンを抜いて4位となった▼目立たない臓器だけに発見が難しく、見つかった時には手術ができないような状態になっていることが多い。専門家も「膵臓は大動脈に接しているだけに、そこに浸潤している場合手術はできないし、可能でも大手術になってしまう。お腹のエコーによりしっかり診ていくことが早期発見につながります」と指摘する▼ただ増加の要因は、高齢化によるところが大きく、患者数が増えてくるのは50代からで、男性の場合70代でピークとなる。膵臓ガンの腫瘍マーカーは血液検査で簡単に調べることができるとか。糖尿病との関連もあるようで、日頃から健診等できちんとチェックすることが最善の策のようだ。

29年3月10日号

電波の最大出力が大きくて、医療機器に与える影響が生じやすい第2世代携帯電話サービスが平成24年7月に終了したことなどを踏まえ、平成26年8月に、医療分野における携帯電話等の使用に関する指針が改訂された▼これによって、それまで使用が原則禁止されていた病院などの医療機関でも、携帯電話使用が原則認められることとなり、院内における携帯電話使用が可能になった病院は急増した▼総務省によれば、全面利用不可の病院は平成17年には51・6%もあったが、平成27年ではわずか4・3%に減少。全面利用可26・4%と一部利用可69・2%を合わせ、95・7%の病院内で携帯電話が使えるようになった▼ところが利用が促進され、トラブルも増加した。総務省のアンケート調査結果では、4分の1の病院でトラブルが発生している。改訂指針で定めている、一般向けと医療従事者者向けの利用ルールの理解不足や、医療機器に対して定められた電磁的耐性の規制(薬事法)への対策が不十分なことなどが理由だ▼そこで、指針を策定している電波環境協議会が「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き」を平成28年8月に作成し、関係機関などへ周知した。今後は、さらに手引きの周知徹底をはかり、手引き内容の拡充やオンライン講習など周知方策の検討も進めていく▼ところで、電波利用の普及促進と安心・安全は相対立するものではなく、ルールを守り定められた対策を講じていれば、トラブルはそれほど生じないはずだ▼運転中の携帯電話利用は道交法で禁止となったが、使用は後を絶たずに死亡事故も起きている。問題は使う人間側にある。指針やルールづくりだけでなく、病院現場での監視や指導など、より実質的な対策も必要なのではないか。