29年9月15日号

JASIS2017では、各社が最先端の分析機器、科学機器を工夫をこらして展示していた。その中で印象に残ったのがS社の細胞培養ラボだ▼シャーレで細胞培養をする際、異物の混入はよくあることだが、多くの研究室ではそれを肉眼で確認し、一つひとつピペットで吸い取るといった作業を行っている。個人の技量に依存する作業で時間もかかるものだが、異物の認識から除去まで自動で行える装置が参考出品されていた。他にもiPS細胞の未分化維持培養/分化培養を半自動で再現性良く行う装置などが展示されていた。手作業から研究者を開放しようというコンセプトだ▼日本の大学や研究機関の多くの研究室では、博士・修士課程学生やポスドクなどが手作業で細胞培養や分取、サンプル作製などを行っている。一方、欧米の研究機関では、若手研究者の教育のために行う場合もあるが、ほとんどの場合はテクニカル部門がそうした作業を担っている。研究者は課題設定や発見をするため、手を動かすのではなく、計画を立て、データを読み解くのが仕事だからだ▼こうした装置を導入すれば、研究者は頭を使うことに専念でき、研究の効率を上げることができる。企業であれば、人件費を装置に置き換えることで収支が合うものの、大学では学生を無料の労働力として使っているため、こうした考え方が適用できない。さらに現在の大学等の財政基盤では難しい▼安倍政権は「人づくり革命」を政権の目標として掲げているが、そのためには、単に「改革」というだけでなく、大規模な財政投資を行い、若者の課題発見・設定能力を育成するための「改革」を進めなければならない。

29年9月8日号

全国で様々な演習行事が行われた9月1日「防災の日」の由来は、大正時代に起きた関東大震災である。近年も東日本大震災や熊本地震など、多大な被害を与えた大地震が発生しており、地震大国の脅威を、いまも多くの国民が思い知らされている▼しかし、こうも大地震の多い国なのに、その備えは本当に十分なのか。国や多くの自治体が、今回の「防災の日」にも地震を想定した防災演習を実施した。日頃からも、地震に備えた準備や訓練を重ねている▼でも、それだけで本当に大丈夫なのかと、重ねて問うてしまう。人、建物、資産、機能が過密に集積した首都圏に長らく居住して、日々、大都市のメリットを享受しながらも、そのリスクを味わっているからである▼「防災の日」を前に、8月28日、日本学術会議が公開シンポジウム「大地震に対する大都市の防災・減災」を開いた。公表した提言「大震災の起きない都市を目指して」を説明し議論するためである▼ここでは過密な大都市の災害リスク分散が指摘され、東京一極集中や大都市への過度な人工集中・機能集中を是正するための国土計画を立て、実行していくべきだとする提言があった▼海抜ゼロメートル地帯や軟弱地盤域の高層ビル・住宅は、長周期の揺れで大被害を受ける危険性が高いため、居住や活動により適した地域へ移動するなど、適地選択を行うべきだという提言もあった▼しかし、戦後に長い年月をかけて築かれてきた大都市構造である。一朝一夕で変えることはできず、すべての対策を講じるのは容易ではないと提言でも述べている▼とはいえ、いつなのかは分からずとも必ず来るとされる大地震である。できる限り最小被害にとどめるため、過密な都市部の分散へ向けた計画を、一刻も早く国をあげて進めるべきである。

29年9月1日号

20世紀の終わり頃から生命科学が進展、特に分子科学がかなり成熟してきた。その原動力となったのがコンピューター技術である▼実際、生命現象を分子レベルあるいは原子レベルで理解し、それをコンピューターでシミュレーションすることが現実味を帯びてきている。分子がわかれば、アミノ酸配列がわかり、アミノ酸配列がわかれば、その分子の三次元構造がつかめるという具合である。ヒトゲノムの全配列から人のタンパク質すべてを生成し、細胞をコンピューター上につくり出すということが夢物語ではない時代に入ってきた▼その恩恵は、薬の開発にも大きな影響を及ぼすという。AI創薬といわれる技術を使うと、今までは製薬会社が何年もの時間と巨額の資金をかけてやっと一つの薬を開発してきたものが、手軽に当たり前のようにできるようになってくるだけに、質的に大きな変化がもたらされる。「コンピューターを使った大学発の創薬」などという昔はとても想像できないことが今まさに実現されようとしているのだ▼専門家も「少数の患者のための薬の開発となると、製薬工業界は抜本的な体制変換をしなくてはいけないでしょう。多品目をつくらなくてはなりませんから。それは社会問題として出てくるのではないか」と指摘する。一方で「大学で創薬する場合には、研究の始めから終わりまでのきちんとした設計が重要となります」とも▼AI創薬の担い手は、製薬会社ばかりではない。大学もその大きな役割を果たすことになりそうだ。

29年8月25日号

国連合同エイズ計画(UNAIDS)の報告によれば2016年の世界のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性者数は約3670万人、そのうち53%が抗HIV治療を受けている。日本では厚生労働省エイズ動向委員会が2015年の日本における新規HIV感染を1006件、新規AIDS患者を423件と報告し、15年末までの累計は約2・5万人(血液凝固因子製剤による感染者を除く)となった▼HIVはヒトの免疫細胞に感染し、無治療であれば命に関わるが、医療の進展により数々の抗HIV薬が開発され、この服用により健常者と同様の生活を営めるようになった。最近では東京医科歯科大学の研究グループが、感染に必須のヒト側のタンパク質を初めて特定し、新たな治療薬開発の可能性を示した。従来の薬剤はウイルスに作用するものだった。いずれにせよ薬剤の服用は一生続ける必要があり、副作用や耐性ウイルスの出現など課題は多い。ワクチン開発も進められているが、HIVの変化しやすい特性が開発を困難にしている▼日本におけるHIVの感染経路は多くが同性間の性的接触によるためその特性ばかりが注目され多分の偏見があるが、異性間の性的接触による新規感染も年間200人程度を維持して減少しない事実がある。そもそも日本では医療へのアクセスにそれほどの困難はないにも関わらず、他の性感染症も克服できていない。梅毒は近年増加傾向をみせている。問題は当事者意識の欠如ではなく、性教育の不足に行き着くのではないのだろうか。

29年8月11日号

米国の大学と同じように、ベンチャー企業のIPOで国立大学が独自財源を構築することができるようになるかもしれない▼文部科学省は1日、国立大学や大学共同利用機関が、大学発ベンチャーを支援する業務などの対価として、現金ではなく株式や新株予約権を受け取れることや、それらの株式や新株予約権を適切なタイミングで売却できるとする通知を出した▼これまで国立大学が株式を取得するのは、寄付あるいはライセンスの対価、または出資業務ができる4大学(東北大、東大、京大、阪大)が自らの大学発ベンチャーを支援する投資会社の株式に限られていた。寄付やライセンスの対価として得た株式は、換金可能になった時点で売却しなければならなかった▼1日からはこうした制限が撤廃され、例えば、研究施設やインキュベーション施設の使用料やコンサルタント料などの対価として、ベンチャーの株式や新株予約権を獲得できるようになった。ベンチャーにとっては現金の支出を抑えることができるため、事業展開が容易になり、大学にとってはベンチャーが成功した場合に大きな収入を得られる▼これまで国立大学等には、法律上・政省令上の様々な制限がかけられていた。にも関わらず、財政当局などは自己収入を増やして自立すべきとして運営費交付金を減らし続けてきた。今回の通知は、この自己矛盾を解消するための第一歩となるもので、今後、研究開発力強化法の改正や税制改正などを通じて、さらに自由が与えられるようになる▼様々な制限が撤廃されるということは、言い訳のできない状況になるということでもある。各大学には運営から経営への脱却が求められる。

29年8月4日号

どうしてこうも利用者が急速に増えたのか、とにかくすさまじい勢いでスマートフォンが世の中に普及してしまった▼CIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)という、ICT産業を代表する業界団体が毎年モバイル通信端末の利用実態調査を行っている▼7月末に2017年度版の調査結果が発表されたが、1台目のモバイル端末としてスマホを利用している人は、調査対象者の90・7%にも及んでいるという結果だ▼従来の携帯電話端末(フィーチャーフォン)の利用者は9・2%。他は、タブレットが0・2%(回線あり、Wi-Fiのみの合計)である▼便利だから利用者が増えるのだろうが、とにかく街中スマホ一色である。しかし、そこで気になるのが「歩きスマホ」の迷惑ぶりだ▼公共機関が駅構内やホームなどでの禁止を盛んに呼びかけているが、一向に減る気配はない▼なぜ減らないのかと考えると、携帯端末は、電話にしろプレーヤーにしろ、元来が歩きながら使うことを想定してつくられたからだと思う▼しかし、あまりにも増えすぎて「歩きスマホ」が社会的に害をなすようになったので、公共的にそれをやめるよう呼びかけることになったのだろう▼CIAJでは、この「歩きスマホ」についても調べている。この行為をやめない理由として「誰にも迷惑をかけていない」が50・8%、「ごく短時間の歩きスマホはやむをえない」が42・5%などとなっている▼モバイル事業者が提供する「歩きスマホ防止アプリ」については、その認知度が39・0%。しかし「使ったことがない」が91・2%という調査結果である▼そこでひとつモバイル事業者などに提案。「歩きスマホ防止アプリ」を使ったら、使用回数や使用時間に合わせて何か得するポイントを付与するというのはどうだろうか。

29年7月28日号

こう暑い日が続くと体がまいってしまい、大切な食事でもおろそかになりやすいものだ。特に朝食である▼以前、朝食を抜いた子供たちが授業などで集中力を欠き、切れやすくなることや、朝食を食べない食習慣が肥満をもたらすといった報告がなされたことはあったが、改めて朝食の重要性を指摘する研究報告が米国の脳卒中専門誌に発表されている▼それは日本人と朝食の摂取頻度と心臓病や脳卒中発症の関係を示したものである。45歳から74歳までの成人約8万2千人(男性約3万8千人)が対象で、朝食の摂取頻度を週0~2日、3~4日、5~6日、毎日の4グループに分けて解析している▼その結果によると、毎日朝食を食べるグループと比べて、0~2日のグループでは、心臓病の発症率で14%、脳卒中では18%と統計的にも有意の増加率となっている。しかも脳出血では発症リスクが36%高まるというのだ▼これについて専門医によると「朝食をとらないことによる空腹感が昼食時まで維持され、昼食時の空腹感と相まって大量に食べてしまう。すると血糖値を正常に保とうと、急激にしかも大量にインスリンが血管内に放出され、血管を傷つけやすくなって脳卒中などの生活習慣病の発症リスクが高まるものと考えられます」と指摘する▼人間には生体リズムがあり、どこかに不規則なことが起きると、それを補い健康を維持しようとする。毎朝しっかりと食べることは、1日のリズムを保つためだけでなく重篤な病気を防ぐためにも必須のようだ。

29年7月21日号

九州など各地を襲った大雨は、山の貯水機能を麻痺させ、河川を氾濫させて、流域に多大な被害をもたらした。いまだ行方不明者の捜索も続き、あちらこちらで山の斜面が崩れ落ちている様子、生活の場が土砂に覆われしまっている被災地を目にすると胸が痛む。近年、異常な量の降雨(例えば1日に平年の1カ月分の雨が降る)が多くなっている。日本だけでなく、世界各地でも、こうした異常気象が起きている▼国内では様々な場所にセンサが設置されるようになった。商業施設や公共施設等の監視カメラ、海底の地震計など、様々な場所がセンシング(計測)対象になっている。宇宙から地上を、あるいは上空の気象をセンシングできる人工衛星もいくつか存在している。これらの情報を集約して、地上で起こる異常気象に対応する試みが増えつつある。東日本大震災後から気象庁では、より緊急性を高めた発表、避難の仕方を繰り返し伝えるようになった。また、指定河川洪水予報で水位危険度レベル、土砂災害警戒情報も地図で一目でわかるように公開している。今回の九州北部豪雨では、防災科研などの研究機関も降雨情報等を解析し、現地対策本部を支援している。内閣府ImPACTでも、孤立地域の道路の崩落状況等をドローンで撮影し、復旧を支援した▼こうした取り組みもあり、科学の力(センシングや解析)で自然災害の被害を多少は軽減できるようになってきた。日本は様々な自然災害に見舞われる希有な場所に立地している。この厳しい環境から生まれた先進的な災害対策の知見は国内だけでなく、自然災害が多発しているアジアをはじめ世界各国で活用されていく必要がある。