30年5月18日号

先日、携帯電話が故障して苦い経験をした。職場では支障なかったが、問題が起きたのは自宅だった▼単身者のため固定電話の回線はひいておらず、インターネットも携帯電話のテザリングを利用していたため、この時点で自前の通信機器による連絡方法が絶たれてしまった。それなのに連絡が必要な用件を思い出したのだ▼PCはあるため、Wi-Fiがつながる環境があれば何とかメール等でやり取りができる。しかし、どこにフリーWi-Fiがあるかも検索できない。仕方なく10分ほど幹線道路を歩いて見つけた公衆電話で連絡して事なきを得た▼東日本大震災が発生した時も公衆電話に助けられた。東北新幹線の車内で大きな揺れを体験し、いつまで経っても電車は動かず、携帯電話もつながらない。ふと、公衆電話がデッキにあったことを思い出し、テレホンカードを購入して、ボタンを押してみた。すぐ会社に電話がつながり、ようやく状況を飲み込めた。そこで聞いた話から実家も津波被害を受けている可能性があることを知り、青い顔をして今度は実家に電話した。幸いにも津波は到達しておらず家人は怪我もしていないと聞きホッと胸をなでおろした▼現在、国内の公衆電話数は16万台程度で2000年の73万台から5分の1近くまで減少しているが、災害のたびにその重要性が指摘されている。公衆電話は防災関係機関などの回線と同様に優先電話の扱いを受けていることから通信制限がなくつながりやすいからだ▼ICT化が進む現代社会で、個人のリスク管理を徹底することも重要であるが、通信の最後の砦である公衆電話は重要インフラとして維持しなければいけない。

30年5月11日号

研究開発力強化法の改正に向け、与党内では条文の作成作業が大詰めとなっているが、財務省のセクハラ問題や公文書書き換え問題などで国会が揺れる中、改正案の国会提出時期はいまだ決まっていない▼研究開発力強化法が改正されると何が変わるのか。まずJSTだけでなく、NEDOや産総研、農研機構、理研などでも、法人発ベンチャーやベンチャーキャピタルへの出資が可能になるほか、ベンチャー支援の対価として株式や新株予約権の取得・保有も可能になる。また、国立研究開発法人、公立大学法人、国立大学法人の株式等の取得・保有が無条件にできるようになる▼米国の大学はベンチャー支援や投資による株式利益を基金として積み上げ、その運用益等で戦略的な研究開発を行っている。日本の大学は、いわば手足を縛られて国際競争をしてきたが、法改正でようやく対等な立場になることができる▼もう一つのポイントが個別の法改正がなくとも基金を造成することが可能になる点だ。現在、補正予算で研究費が認められたとしても、基金化には、個別の法人設置法を改正しなくてはならない。例えば、内閣府のImPACTはJST設置法を改正して、5年の期限付きで造成された基金で運営されている。今回の法改正がなされれば、AMED、JST、JSPS、NEDO、農研機構については、設置法の法改正なしに基金を造成できるようになる▼ERC(欧州研究評議会)をはじめ、欧米の研究資金の多くは、基金や基金に準じた運用がなされており、研究費を効率よく使用している。これが世界標準であり、逆に科研費以外で基金化が進まない日本の研究の生産性を低下させている一因でもある▼スキャンダルを追及することも必要であろうが、日本の将来のために今何をすべきか。国会の良識を求めたい。

30年4月27日号

先日、AI(人工知能)では国内最大とされる専門展を見てきたが、会場内は人をかき分けて先に進まなければならないほどの混雑ぶりで、盛況を超えて過熱気味であった▼しかし、これほど熱い注目を浴びているAIだが、情報通信分野の業界団体であるCIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)が、会員向けにまとめた「技術ナビゲーション2018」で気になる指摘をしている▼この調査報告は、CIAJの会員企業が今後どう自社のビジネスを展開するか、その参考材料を提供するために、技術動向を調査して報告しているものである▼今回はその中で、新たなサービスやビジネスを創出する際の、課題や制約・阻害要因などを検討した結果、AIについては研究成果や知財権、人材で日本と米国の技術格差が大きく、その解消が課題だと問題提起している▼AI主要論文数の傾向では、中期的(約20年間)には米国が全体の28%を占めて圧倒的に多く、英国(9%)、中国(5・8%)、ドイツ(5・7%)などと研究ハブを形成。日本(3・3%)は、こうした世界のハブから取り残されている▼AI特許出願数でも米中が他国を圧倒。さらに、経営者の姿勢についても、IT人材への報酬やIT投資に対するマインドが日本は米国より低く、マイナス要因となっているという▼世界的にAI開発競争が激化しているが、日本のこの状況は深刻である。国を挙げて開発を推進する日本だが、相当なスピードアップや投資拡大などが必要なのではないか。

30年4月20日号

酒を飲み過ぎればどうなるのか。筆者もその一人ではあるが、日頃こよなく愛飲する人なら、肝臓をいためる結果になることくらい百も承知ではある▼それが肝硬変、ひいては肝臓ガンとなり取り返しのつかないことになってしまうとの指摘(脅かし?)も十分に分かっている。しかし最近の研究成果では、肝臓ガンの原因としては肝炎ウイルスによるものが圧倒的で8割以上を占めるそうだ。肝炎ウイルスによって肝炎を起こし、それが慢性化することで肝硬変へと悪化していき、最終的に肝臓ガンに至る。飲酒によるものはまれであるということのようだ▼そのウイルスについてだが5種類あって、そのうち注意しなければならないのが2つ、B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスである。双方を比べてみると、B型は母子感染や性行為で感染するが肝ガン全体の1、2割程度。一方C型は輸血などで感染し、全体の7割ほどを占めるというから圧倒的に多い。とはいっても、現在では効果的な薬剤も開発されているし、治療方法も急速に進歩しているという▼しかも、適切な治療でウイルスが消滅すれば、肝臓ガンに至る悪い流れが断ち切れるし、予防も期待できるということだ。「酒による影響はあまりないのだ」とほくそ笑んでいると、女医さんから「多量の飲酒は肝臓だけではありません。腎臓、胃、心臓、脳などすべての臓器に悪影響を及ぼします。飲み過ぎは絶対に禁物。節度を持って」ときつくクギを刺されてしまった▼それができるくらいなら苦労はいらないし、酒を断つことなど考えられない。でも、過ぎたるは及ばざるがごとし。肝に銘じて対処するしかないようだ。

30年4月13日号

我々は常に感染症のリスクにさらされている。感染症といっても、ごく軽度の風邪から致死率の高いエボラ出血熱や狂犬病まで様々で、風邪やインフルエンザならば日本でも毎年流行する。一方で、マラリア、結核、エイズは世界3大感染症といわれ、その伝搬性や対策経費の大きさから世界保健機関(WHO)もこの対策の国際協力を推進している▼2014年、東京の代々木公園を中心とした海外渡航歴のないデング熱感染者の発生は、大きな問題となった。その後、公園は閉鎖され、調査と薬剤散布が行われた。デング熱はネッタイシマカなどの蚊が媒介するデングウイルスを原因としている▼グローバル化が進む中で、こうした感染の日本への侵入は避けられない。空港等でサーモグラフを用いた水際対策なども行われているが、完全な阻止は不可能と考えられている▼先日、順天堂大学は、アフリカでこれまで確認されていなかった薬剤(アルテミシニン)耐性マラリア原虫の発生を確認したと発表した。東南アジアでは既に耐性原虫が確認されていたが、患者の9割が存在するアフリカでの発生は初めてだ▼多くの国が隣接しているアフリカでは、国によって対策の程度が異なり、国境からの人や物の流入が容易で、WHOなどの活動により患者数や死亡数は減少しているが、撲滅は簡単ではない。同薬剤は経口投与で簡便に高い効果をもたらすため、耐性原虫の拡大は深刻だ▼マラリアは医療制度の整った日本での拡大は考えにくいが、我々は注意すべき感染症に取り巻かれている。狂犬病の予防摂取率は平成28年度の登録頭数の平均約70%程度であり、性感染症の拡大も問題になっている。日本人は感染症に対して疎いといわざるを得ない。対岸の火事ではなく、当事者としての自覚と対策を期待したい。

30年4月6日号

発明の日」の4月18日を含む一週間(16~22日)は、科学技術週間だ。各大学や研究機関等では、一般公開や子供科学教室など、様々なイベントが行われる▼近年、若者の科学技術離れだけでなく、大人の科学的視点や知識の不足から、あたかも科学的根拠があるかのような謳い文句があふれ、その商品やサービスが堂々と売られていることも多いのが現実だ▼科学技術・学術政策研究所の調査によると、大学生の59・2%が科学技術情報に関心を持っているが、その割合は理系以外の学部生で見ると42・4%に低下する。また小中高校生時代に理科や算数・数学が好きだったかどうかを聞くと、好き嫌いと進学に明らかな相関があり、理科や算数・数学が嫌いなことが理系以外への進学を促進していることがわかる▼子供たちの算数・数学・理科への関心を高めるため、様々な取り組みが行われてきたが、あまり奏効していないのが現実である。文部科学省では子供科学技術白書を作成していたが、思ったほどの効果が出ないことから、現在は作っていない。主人公が様々な冒険を通して、特定分野の内容を学んでいくという漫画なのだが、内容が難しかったり、そもそも科学に関心を持っている人しか手にとることがない▼先日、日本アイソトープ協会が放射線や放射能に対する理解を促すゲームアプリを開発し、公開した。ここにはゲーミフィケーションという手法が使われており、ゲームの中に放射能や放射線といった言葉は出てこないが、後で「ああ、そういうことだったんだ」と理解できるシステムになっている。また一部の大学の授業ではゲーミフィケーションの手法を取り入れた授業を行うことで興味・関心や理解について一定の成果を得ることに成功している。これに限らず、新たな手法を模索・実践する必要がある。

30年3月30日号

言語の壁をなくす「自動翻訳技術」が、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に注目されている。近年のAIを用いた研究開発で翻訳精度が向上し、実用に耐え得る自動翻訳システムの開発が進んでいるためだ▼そうした中、先日、世界の言葉の壁をなくすグローバルコミュニケーション計画を進めている総務省とNICT(情報通信研究機構)が、自動翻訳シンポジウムを都内で開いた▼会場には多くの参加者が集まり、関心の高さをうかがわせた。シンポジウムでは、AIとビッグデータが自動翻訳で重要なことが強調され、ニューラルネットワーク(深層学習)を用いた機械翻訳の実用技術として、NICTが開発した「Voice Tra(ボイストラ)」の一層の翻訳精度向上へ期待が寄せられた▼「ボイストラ」は多言語(31言語)の音声翻訳アプリとして、既にスマホで利用されている。しかし、その翻訳精度をさらに上げるためには、ニューラルネットワークのアルゴリズムの改良だけでなく、翻訳データ量も大きく関係する▼そこで、NICTは「翻訳バンク」を昨年から運用している。翻訳データは、原文とそれを様々な言語に翻訳した訳文の対を集めたもので、これが多いほど高精度の自動翻訳が可能になる。そのため、様々な分野の翻訳データを集めて集積することが重要となる▼シンポジウムでは、NICTの担当者が「翻訳バンク」の取り組みを紹介した。既に50組織からデータ提供があったとしたが、まだまだ足りず、参加者に一層の協力を呼びかけた▼スマホなどを使い、街中で訪日外国人と気楽に会話できたらと思っている人は多いだろう。そういう願いをかなえるためにも、高度な自動翻訳技術の実現に向け、この「翻訳バンク」に多大な協力が寄せられることを期待したい。

30年3月23日号

ハードボイルド小説に出てくる主人公と言えば、ニヒルで孤独をこよなく愛する人物として描かれることが多いようである▼筆者は、この孤独を愛することについて、一人になりたいと思うその気分が好きで、感情がそうさせているのだと思い込んでいた。ところが最近の研究によると、一人になりたいとの感情は遺伝子(孤独遺伝子)がそうさせているというのである。集団が天変地異や重大な感染症などにさらされた時に、孤独遺伝子を持った人間が住み慣れた土地を飛び出して違う場所に行くことで生き残る▼孤独を好む人たちが分散して社会を形成してきたからこそ、人類は生き延びてきたのではないか。新しい土地をどんどん開拓し居住範囲を広げていくために孤独遺伝子が必要だったのではないかという説が提唱されている。孤独遺伝子は、人類のチャンスを広げる可能性を秘めているということが言えそうだ▼一方で、孤独な人たちは社会とのつながりが希薄であるため、寿命が短いとの研究成果もある。ただ専門家は「身体的な幸福度の半分は遺伝で決まるとされていますが、タバコを吸う人でも長生きの人がいるように、残りの半分は行動とか環境によって変わります。寿命も一つの要因で全てのことが決まるわけではありません」と指摘する▼孤独遺伝子を持つ人がいなければ、世の中こんなに発展はしなかったとすれば、種の保存の観点からも大いに貢献していることになる。今後も孤独遺伝子には注目していきたい。