30年1月1日号

昨年は米国のトランプ政権誕生による世界情勢の混乱や、北朝鮮の核開発にともなうミサイル発射、相次ぐ国際テロ事件など脅威を感じることの多い1年であった▼国内でも日本を代表する企業の不正が相次ぎ、その国際的信頼低下が心配されるなど、暗い話題が目立った。救いは卓球やバドミントン、スキージャンプ、フィギュアスケート、スピードスケートなど、スポーツ界での日本選手の活躍だった▼科学技術の世界では、残念ながら昨年は日本のノーベル賞受賞はなかったが、引き続き各分野で世界トップ級の研究開発成果がいくつも報告され、世界的に高水準の日本の科学技術の将来になんとか期待をつないでいる▼例えば生命科学やICT、人工知能、ロボットなどの技術進展は目覚ましく、産業やビジネス、医療や生活など、経済・社会に多くの変化をもたらしつつある▼やはり、科学技術は人々の生命や生活を守り、産業・経済を発展させ、人類の幸福を実現するための手段として発展してほしい。それが新年の強い願いである▼一部の国や人のエゴ、贅沢を満足させる手段でなく、人類全体の幸福のためにあるのが科学技術だという認識を、世界中の人たちが共有すべきである▼人類はいま、環境や災害、食糧、人口の問題など、かつてない大きな危機に立たされており、世界が手を携えてこれに立ち向かわなければならない時だ▼高度な科学技術はこうした問題の解決のために役立てるべきものであり、核をはじめとした殺戮兵器開発に力を注いでいる時ではない。

29年12月22日号

人間と犬との付き合いは長い。ロシアの遺跡から約1万7千年前の犬の骨が見つかっているのだ▼しかもその骨は、他の狩猟対象となっている動物の骨とは違い、きちんと埋葬されていた。当時の人間は、狩りのパートナーとして犬と一緒に暮らしていたことが推測される。このように人間と深い関係を保ってきている犬ではあるが、最近、その親密度を証明する研究データが発表されている▼スウェーデンのチームの研究成果で、一人暮らしで犬を飼っている人は、動脈硬化や心臓病のリスクが大幅に減るというのだ。40歳から80歳の人、約340万人を対象に12年間の健康データをもとに、犬の飼い主に関する情報を照らし合わせて、その影響を追跡している▼その結果、一人暮らしの場合、犬を飼っている人は飼っていない人よりも血管の疾患で亡くなるリスクが36%も減っているというのだ。家族と暮らしている人でも犬を飼っていると15%ほど低下しているという。因果関係ははっきりとは分かっていない▼研究チームによれば、犬を飼うととにかく家から外に出る機会も増える。そうなれば犬とのふれあいや周辺社会との交流も盛んになるし、犬に癒されることで飼い主の免疫力が活性化する可能性が高いとしている。現代社会での人間と犬との関係を見てみると、警察犬や麻薬探知犬、最近では人間の生活を補助してくれる盲導犬に介助犬と本当に幅広い分野で日々活躍し、役に立ってくれている▼来年の干支は犬(戌)、改めて人間との絆がさらに深まればと願っている。

29年12月15日号

大学附属病院等による医師主導治験が増加傾向をみせている。もちろん製薬企業が実施する治験と比較すれば件数は少ないが、少しずつ増加している▼医師主導治験は03年の薬事法改正により始まり、それまで製薬企業等のみが許可されていた治験を医師も行うことができるようになった。製薬企業等が採算等の理由で実施しなかった、あるいは海外では承認されているが日本国内では未承認薬の適応外使用を対象としている。例えば小児疾患や難病は患者の絶対数が少ないため該当することが多い。想像でしかないが、医師主導治験の実現は、患者を実際に身近で診て治療法開発を目指す医師にとって、患者に治癒の可能性を示せる待ち望んだ機会だったと思う▼ただ、この実施によるベネフィットが医師にさほどないことが釈然としない。大学病院等の医師の仕事は診療と研究、教育であり、奉仕の精神で医療に臨むのは倫理的には正しいだろう。しかしこれは患者の利益であって、医師の仕事はおそらく治験の実施で増加している。無償の善行は美徳とされているが、これは厚意の搾取につながりやすいことをもっと認識すべきでないか▼長時間労働による過労死や自殺の増加を受けて政府は働き方改革を進めているが、同時に担い手不足という問題も抱え、医師に関わらず担い手のハードルが高く責任が重い職業ほど絵に描いた餅になっている。医師については既に審議会が設置され、実現可能な対策が期待される。一方で我々国民にも意識改革が必要なのではないだろうか。
(29年12月15日号)

29年12月8日号

大学改革を加速していきたい。林芳正文部科学大臣ではなく、内閣府の松山政司科学技術政策担当大臣の発言だ▼現在の大学改革は、臨時教育審議会の第2次・第3次答申(86~87年)から始まった。これを受け、当時の文部省は、産学連携や異分野融合を進めるため奈良先端大や北陸先端大を、大学共同利用機関での学位取得を可能にするため総合研究大学院大をそれぞれ設置。また、国立大学に民間の寄附講座や寄附研究部門を作ることができるように法改正を行った▼98年には大学審議会(当時)が答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」を取りまとめた。大学の教育、研究、地域貢献、組織運営、評価システムの再構築を求めた。その後にも様々な改革が進められ、04年には国立大学が法人化された。法人化に伴う基盤的経費の削減が取りざたされることが多いが、その間にも改革は様々なレベルで進められてきた▼その進捗が遅いのではないかというのが、現在の官邸や永田町の認識である。経済財政諮問会議や未来投資会議、総合科学技術・イノベーション会議でも、首相から大学改革を進めるよう指示が出ている。これを受けて内閣府では、文科省に任せるのではなく、各省庁と連携して大学改革を加速するための取り組みを進めようとしている▼ただ、中心となるCSTI常勤議員に学長経験者がいないことが懸念材料だ。大学という特異な組織を動かす苦労を知らなければ、共感が得られず、理論が正しくとも人は動かない。何らかの工夫が必要だろう。

29年12月1日号

弊紙の過去の新聞を見ていたら、平成22年5月14日号に「戦略なき予算削減に危惧」の見出しで、日本化学会をはじめとした国内の科学・技術関連の26学会がまとめた提言の記事が載っていた▼当時は連立の民主党政権が予算編成で事業仕分けを導入した時代で、提言では純減された科学技術関係予算を危惧し、日本の中長期的国家戦略として科学力・技術力強化などのため、研究教育予算・投資の改善を求めている▼しかし、その後の科学技術関係予算の推移を見ると、大型の補正予算などを組み、平成23年度と24年度は伸び続け、24年度には5兆円超に拡大した▼そのまま伸びが継続すれば、第4期科学技術基本計画(23~27年度)での5年間25兆円という目標達成の実現も可能かと期待感も抱かせた▼ところが24年度途中から再び自民党政権に戻ったものの、25年度に再び前年度より減少。第5期計画が始まっても26、27年度と減少した。28年度にはやや回復したが、29年度当初予算は前年度横ばいで、大型補正予算でもない限り伸びは望めない状況である▼最近は世界の大学ランキングで日本の凋落が指摘されるなど、研究開発力や科学技術力の低下が危惧されており、再度、科学技術関係予算を増額すべきという声が上がっている▼日本は有望な資源を持たない国で、産業を生み貿易で稼ぐために科学技術は重要な国家基盤だ。そこへの投資は将来への投資であり惜しんではならない。長く続くこの問題への対応は近視眼的にでなく、国家百年の計としてとらえ配慮すべきではないか。

29年11月24日号

もうかれこれ30年以上前になろうか、当時の文部省宇宙科学研究所に大林辰蔵(故人)という名物教授がおられた▼大林教授は日本の宇宙開発の先駆け的な存在で、スペースシャトルを利用し、東京の空にオーロラをつくろうという実験を計画し、実行した。成否はともかく、宇宙に対するロマンを大いにかき立てられたものだ。そして今度は2019年の夏、夜空に「人工の流れ星」を輝かせようとする世界で初めての実験を民間企業が進めるという▼この実験では、人工衛星から金属球を打ち出して流れ星のように見せる。本物の流れ星よりも速度が遅く、地上で見られる時間は長い。狙った地点の半径100キロメートルの範囲で、高度60キロメートル付近が最も輝き、夜空が暗ければ10秒以上見えるそうだ。その後、金属球は地上に落ちる前に大気との摩擦で燃え尽きてしまう▼そういえば大林教授によると、学生に月に行きたいかと問うと多くが行きたいと答えたが、住みたいかと問うと住みたいと答えた学生はほんのわずかにまで減ってしまったそうだ。教授いわく「月には何もないことを知識として知っているからだが、何もないからこそ、そこに夢やロマンを感じる人が一握りでもいれば、宇宙開発は大いに推し進められる」と力説していたのを思い出した▼この人工の流れ星実験に、科学者だけでなくとも何かロマンを感じるのではないか。もしその中から新たな人材が発掘できれば、その意義は大きい。

29年11月17日号

厳戒態勢の中、トランプ米国大統領が来日したが、日米首脳の会談の内容よりも、その動向や安倍首相との蜜月ぶりに注目が集まっていたようだ。首脳ワーキングランチや首脳会談では、来年3月に日本で開催する第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)に触れ、宇宙探査分野における協力を推進することが確認された。米国では、トランプ政権になってから宇宙探査に積極的に取り組み始めた印象がある▼米国政府は10月にナショナル・スペース・カウンシルで、再び米国宇宙飛行士を月に、それを足がかりに火星を目指すことを宣言している。月の有人探査については前世紀と異なり、産業界や国際パートナーと連携を強化する方向を打ち出している。莫大な宇宙開発予算を一国では確保できない現状もある一方で、多極で運用している国際宇宙ステーション(ISS)の成功が影響しているのかもしれない。日本でも有人宇宙探査や科学探査は、国際協調で行うとしているが、今後の方向性がしっかり示されているわけではない。もちろん、SLIM(小型月着陸実証機)やMMX(火星衛星探査計画)という野心的な探査計画もあるものの、日本の宇宙探査計画の全体像はいまだに見えない。ロシアでは有人の月探査計画、欧州でも米露と協力した月や火星探査の計画などを長期的な視野で考えている。中国もしかりだ▼米国が主催した前回のISEFではISS運用期間(2024年まで)延長など重要な決定がなされた。ISEF2では、主催国である日本は、各国が興味を示して共に計画を進めたいと考えるような魅力的な今後の宇宙探査計画を打ち出すべきだろう。

29年11月10日号

オーストリアと聞くとどういうイメージを持つだろうか。ウィーンであればオペラやハプスブルク家の宮殿、アルプスにいけばスキーをはじめとするウィンタースポーツ。観光産業の印象が強いが、実は日本以上に科学技術立国なのだ▼日本政府はこの十数年、政府研究開発投資をGDP比1%にすることを目指して、研究開発投資を増やすと標榜してきた。しかし、日本全体の研究開発投資は3・56%と大きいが、政府研究開発投資は地方分を入れても約0・76%といまだ達成できていない▼オーストリアの研究開発投資は、全体ではGDP比3・14%だが、内訳を見ると連邦政府・地方政府の負担分は1・09%、民間が2・04%と政府負担は日本よりも大きい。また連邦政府と地方政府の負担割合は全体では7対1だが、州別GDP比で見ると、シュタイアーマルク5・16%、ウィーン3・66%、上オーストリア3・18%、ケルンテン3・15%と研究開発に熱心な州では積極的な投資が行われている▼ペニシリンは1928年にフランスのアレクサンダー・フレミング博士が発見したものだが、それを精製することに成功したのは、オーストリア人のハワード・フローリー博士とイギリス人のエルンスト・ボリス・チェーン博士である(1940年)。ペニシリン実用化は世界中に恩恵をもたらし、フローリー博士の肖像はオーストリアドルにも使われていた▼こうした背景からオーストリアには研究開発を大切にする文化がある。高等教育を含めた教育無償化を行い優秀な人材を数多く輩出するとともに、企業への優遇措置を設けることで世界360社以上の欧州における本部機能を誘致した。研究開発投資は00年から15年で62%も増加している。日本政府も科学技術創造立国を目指すのであれば、それなりの取り組みが必要だ。