28年12月2日号

次期米国大統領のトランプ氏は、就任後にTPPから離脱すると表明し、公平な二国間協定による貿易交渉を進める考えを明らかにした。雇用と産業を取り戻し、強いアメリカを復活させるためだという▼二国間協定といえば、日本は過去に半導体や衛星分野などで苦い経験をしてきた。この時、日本はそれらの分野で力を付け、米国市場を脅かしはじめたころである。米国はスーパー301条をちらつかせながら、日本企業によるダンピング防止を求め、日本市場の積極的開放を求めるなどした▼二国間協定となれば、自国産業を守るために、今後はどういう分野で米国が交渉に動き出すか分からない。製造業分野で新たな要求でも出てくれば、なかなか活気を取り戻せない日本のものづくり産業が、さらに厳しい状況に追い込まれないとも限らない▼例えば、いま世界的に自動運転車の開発が注目を浴びているが、日本はこの分野でも開発が進んでいる。また、ロボット産業は世界をリードする技術レベルにあり、さらなる開発が進められている▼国をあげて開発を進めた通信衛星が、政府調達コードにかけられる形となり、研究開発用を除いて日本は実用通信衛星の開発を止めることになった過去がある。トランプ氏の発言は、こうした先端技術の産業分野で今後米国が圧力を強める可能性を示唆しているのではと、不安な気持ちになる▼二国間協定は、米国が得意な交渉戦略である。取り越し苦労かもしれないが、日本はしっかりと情報収集を行い、そうなった時の準備を今から進めておく必要がある。

28年11月25日号

方の政治評論家やマスメディアなどの予想を覆して、米国の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が次期大統領に選出された▼トランプ氏といえば、選挙キャンペーン中から何かと問題発言を連発し、物議を醸した人だ。自国に関する限りにおいては高みの見物で済むのだが、日本に関わるとなるとそうはいかない。例えば、防衛問題で気になることがある。日本が核兵器を持つことを容認するような発言をしていることだ▼現段階で日米の著名な政治家や学者の間では「日本は核兵器を持つようなことはない」との認識で一致していると言っても過言ではない。そう言い切れるのには理由があって、持たないことの担保となっているのが日米原子力協定である。1953年12月に開かれた国連総会で米国のアイゼンハワー大統領は有名な演説「アトムズ・フォー・ピース」の中で、原子力平和利用を世界に呼びかけた▼資源のない日本がこれに呼応し、協定を結び、核武装しない代わりに、米国からの核燃料の調達や再処理、資機材・技術の導入などを認められている。仮に隠れて核兵器開発し、それが発覚したら協定違反となり、どんな制裁でも受けることになっている。それだけに協定の持つ意義は重い。18年7月には協定の期限切れを迎える。従来なら自動延長で済む話だが▼この発言があるだけに、日本として国防に対するきちんとした立場を明確にし、核兵器を持たない正当性を示して米国と交渉に臨むことを期待したい。

28年11月18日号

今国会は、新たな地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定、TPPなど話題に事欠かない。その中で、第190回通常国会に提出され、継続審議だった宇宙関連2法案(宇宙活動法、リモセン法)が11月9日、参議院の本会議で可決、成立した。これらは主に民間による宇宙開発・利用を促進するためのものだ▼例えば、米国ではスペースX社が幾度かの失敗をしながらも大型ロケットの打ち上げサービスを行っている。日本国内でも小型ロケット等の打ち上げは民間でという流れがある。これまで限られた組織でしかできなかったロケットの打ち上げにベンチャー企業が参入できるよう法整備したのだ。今年度中に政府が取りまとめる「宇宙産業ビジョン」の下、宇宙産業全体の底上げを図る▼ここ最近の一番の話題は、やはり米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏が決まったことだろう。サイエンス・ディベートによるアンケートでは同氏の回答の中に、宇宙についてのキーワードが何度か登場する。他の科学技術分野に対する回答の希薄さからすれば注目すべきだが、実際は予想がつかない。日本の宇宙科学・宇宙開発は、国際協調で進めるという考えだが、特別な関係にある米国の政策に引きずられる可能性もある▼米国のように民間による宇宙関連サービスの拡大が、様々なイノベーションをもたらす可能性がある。これまで考えられなかった新しい「宇宙の使い道」が見いだされるかもしれない。大きな世界的変化の中で、政府は宇宙産業をどのようなストラテジーをもって推し進めていくのか、今後の展開に期待したい。

28年11月11日号

運営費交付金は実質的にそれほど減っていないし、各種補助金を合わせれば国立大学の収入は増えているため、教育研究活動を圧迫しているとの見方は正しくない。財政制度等審議会における財務省の説明である。確かに財務省の説明資料を見ると、そういった数字が並んでいるが、実際の現場の実感は全く異なるものであろう▼04年度と16年度を比較したケースで論じており、附属病院の運営費交付金は584億円がゼロに、退職手当が1149億円から645億円に減、一般運営費交付金は382億円しか減っていないというが、退職手当は毎年の退職者の数で決まるため比較する意味がないし、合計966億円のマイナスというのは経営的には非常に大きい。その間には、電子ジャーナル等の価格が高騰し、法人化したことで労働安全対策関連経費が大幅に増加した結果、運営費を上げている。また、各種補助金等が増えているというが、そうした資金は運営費に充てることはできず、逆に電気代や環境整備費で運営費を増やしてしまった。もちろん間接経費が十分に措置されているわけではない▼さらに科学技術予算については、91年以降、他の主要国と遜色のないペースで拡充しているにもかかわらず、トップ10%論文の割合が低いとして、予算額が必ずしも研究開発の質に結びついていないと指摘している。しかし、この場合の科学技術予算というのは科学技術関係経費のことを指しており、基本計画が新しくなるごとに対象範囲が広がってきた、見かけ上の数字に過ぎない。もちろん、トップ10%論文割合の低さは課題ではあるが、その要因には予算構造そのものの問題もある。文科省には、正々堂々とした反論を期待したい。

28年11月4日号

10月19日から21日まで東京ビッグサイトにおいて、一般社団法人日本ロボット工業会と日刊工業新聞社が主催する「Japan Robot Week 2016」が開催された▼展示会場では企業や大学などが開発した介護・福祉、生活支援、医療、教育・エンターテインメント、災害対応、メンテナンス・検査、農林水産業用などの多彩なロボットや関連技術が展示・紹介された▼日本が得意とするヒューマノイドロボットでは、階段やはしごを上り下りしたり、人が用いる道具を使って作業したりできる、NEDOプロジェクトで開発された最新の災害対応ロボットが人目を惹いていた▼同じくNEDOプロジェクトで開発された、土砂崩落や火山噴火など人が立ち入れないような災害現場に投入して、電磁探査で埋設物の位置や二次崩落の危険性を調べたりできる、地上と空中から被災現場の調査が行えるロボットシステムも注目されていた▼また高齢者の転倒による骨折などを低減する寄り添いロボットや、歩行リハビリ用の人体装着型膝アシストロボットなど介護・医療ロボット、人の重労働を軽減してくれるスーツタイプのロボットも多く紹介されていて、人の生活や仕事などを手助けする各種支援ロボットの技術の高さが分かった▼会場では、これら様々なロボットや関連技術の紹介ばかりでなく、こうしたロボット開発を推進する産業都市・地域・組合・協議会など、日本各地の取り組みも展示・紹介されていた▼産官学連携で展開される日本のロボット産業の進展ぶりがうかがえ、日本のものづくり産業の底力のようなものが感じられた。日本のロボット技術が、ぜひとも世界をリードする産業にまで発展してほしいという思いが一段と強まった。

28年10月28日号

日本食(和食)と地中海食が世界から心臓病を駆逐するといったら少々大げさかもしれないが▼これを裏付ける報告が欧州心臓病学会から出された。これらの食事が薬と同様に心臓病の予防に効果的だという。イタリアの研究グループが、心臓血管疾患のある1197人を約7年にわたって追跡調査した結果、地中海食を最も食べているグループは、最も少ないグループに比べて、心筋梗塞や脳卒中の発生リスクが37%も低下したとのことである▼地中海食といえば、魚介類、緑黄色野菜、果物、穀物、豆類を多く摂取するし、調理にはオリーブオイルをよく使う。これは日本食にもあてはまり、今や健康食として世界から認知されるまでになっている。地中海食や日本食に近いほど心血管疾患ばかりでなく、認知症、ガン、糖尿病、鬱病などのリスクを引き下げてくれるそうだ▼専門家も「高脂肪・高タンパクの代表のようにいわれるアメリカ的な食事は問題外ですが、確かに日本食や地中海食の有効性は科学的にも示されています。温暖な気候も心臓病にはプラスに作用しているのでしょう」と指摘する。一方で、世界的に有名な医学誌にアメリカ・ドイツ・日本における祝日と体重の関係を調査した論文が出されている。それによると各国でクリスマス休暇や正月休暇がある年末年始には体重変動が大きく、太りやすくなる傾向になるという▼まさに、過ぎたるは及ばざるがごとし。効果がある食事でも節度を持って食することが肝要のようだ。

28年10月21日号

10月12日15時30分ごろ発生した都内の大規模停電は、埼玉県新座市の東京電力地下施設の火災により起こり、16時25分に完全復旧した。都内で一時的に最大37万戸、のべ58万戸に影響を出した。地下トンネルに敷設している送電ケーブルの破損に伴い、絶縁体に使われている油から引火したことで発生したと見られており、東電は調査を行っているという▼火災は最初、新座から練馬変電所への送電線で発生し37万戸が停電。約10分で別回線を介して復旧したが、この火災により近くに敷設してあった豊島変電所への送電線にも被害が広がり、最終的に合計で58万戸が停電した。敷設から35年経過したケーブルからの出火であり、延焼防止シートがかけられていなかったことがわかっている。ケーブルの使用年限は設定されていない▼我が国では高度経済成期以降に整備された社会インフラの老朽化が問題になっており、土木学会なども維持費が後回しになる傾向に警鐘を鳴らしている▼停電が昼間だったため、大きな事故は起きていないが鉄道等が運休し、大きく影響を受けた人も多い。これが夜間だったら、あるいはもっと長く停電が続けば重大な事故が起きていてもおかしくない▼東日本大震災による原子力発電所の事故以来、電力会社の信頼性は揺らいでいるが、本来日本は諸外国と比較して停電の頻度も時間も短く、電力事情は良好なことが知られている▼再発防止の対策および誠実な対応を期待したい。

28年10月14日号

大隅良典東京工業大学栄誉教授のノーベル生理学・医学賞受賞のニュースは、日本中を明るくした。一方で、大隅教授が憂えている「基礎的な研究ができにくくなっている」という状況について、政府も解決の手段を見いだせていない▼国立大学の法人化と運営費交付金の削減が、各研究室に配分される校費の削減につながり、科研費を申請する以前の非常に基礎的な研究が行えなくなっていることが、大きな問題だ。最近は旧帝大系でも研究室を維持する最低限の資金すら賄えないのが現状だ。では、これをどうすれば解決できるのか▼一つは、研究と教育をある程度切り分ける必要がある。教育に必要な経費が確保できないのでは、そもそも学費に対する教育サービスを提供できていないということになり、高等教育機関としての存在意義が問われることになる。研究については、取り組んでいる分野によって必要な経費は大きく異なるため、各分野ごとに最低限必要な経費を見積もる必要がある。その上で、本当に必要な資金規模をつまびらかにし、国民に問うことが大切だ▼行財政改革という向かい風の中、税金の使い方については厳しい目が注がれている。経営の効率化・合理化、無駄の排除などは必要なことだが、同時に本当に大切なことは何なのかを明らかにし、大学として守るべきものを守らなければ、20年後、30年後のノーベル賞受賞者は生まれないだろう。