リチウムイオン二次電池の組成変化を解明

群馬大学理工学部の鈴木宏輔助教、鈴木操士氏、石川泰己氏、櫻井浩教授の研究グループは、高輝度光科学研究センターの伊藤真義副主幹研究員、櫻井吉晴主席研究員、トヨタ自動車の山重寿夫博士、立命館大学の折笠有基准教授、京都大学の内本喜晴教授と共同で、大型放射光施設SPring‐8の高輝度・高エネルギーの放射光X線を用いて、動作下にある市販のリチウムイオン二次電池から、リチウムイオン濃度分布を測定し、同時に正・負極内のリチウム組成変化を明らかにすることに成功した。
 リチウムイオン二次電池の特性向上に関する課題の一つに、電極内におけるリチウムの反応分布がある。鈴木宏輔助教によると「この詳細を明らかにするためには、非破壊で電池内部の反応分布を可視化し、反応に寄与するリチウムを定量することが重要であり、研究を進めました」という。
(29年9月8日号)

抗ガン剤「薬剤耐性」解除と予防法発見

 東京医科大学医学総合研究所の大屋敷純子教授、今西哲助教らの研究チームは、関節リウマチや多発性硬化症の治療に用いられている薬が、血液ガンの一種である骨髄異形成症候群の薬剤耐性を解除、克服する可能性があることを見いだすことに成功した。
 骨髄異形成症候群は高齢者に多い血液のガンで、貧血、出血傾向や感染しやすいなどの症状を示し、およそ30%の患者で急性骨髄性白血病へと進展する疾患である。これを改善するためにアザシチジンという抗ガン剤が使用されているが、患者の半数で無効か、有効でも長い間には効果が期待できなくなることが臨床上の問題となっている。
(29年9月1日号)

「腫瘍細胞の糖鎖と結合」計算機科学で人工レクチン設計

横浜市立大学大学院生命医科学研究科の寺田大樹博士、ジェレミー・テイム教授、生命ナノシステム科学研究科の大関泰裕教授、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター構造バイオインフォマティクス研究チームのケム・ツァン・チームリーダー、長崎国際大学大学院薬学研究科の藤井佑樹講師らの共同研究グループは、抗腫瘍細胞活性を有するムール貝(ムラサキイガイ)のタンパク質MytiLec(マイティレック)-1の構造情報をもとに、計算機科学を用いて設計した腫瘍細胞結合活性を持つ人工レクチン「」Mitsuba(ミツバ)-1」の作出に成功した。
(29年9月1日号)

ゲノムのメチル化レベル測定法開発

 東京工科大学応用生物学部の吉田亘助教、軽部征夫教授らの研究グループは、ガンのバイオマーカーであるゲノムのメチル化レベルを、簡便かつ正確に測定できる方法の開発に成功した。
 DNAメチル化とは、CpG(シトシン・グアニン)配列中のシトシンだけがメチル化される反応。遺伝子発現制御において重要な役割を果たしている。ガン細胞では、ゲノム全体のメチル化レベルが低下することから、これらはガンのバイオマーカーとして期待されている。
(29年9月1日号)

抗ガン剤で心筋が萎縮する機序を解明

生理学研究所心循環シグナル研究部門の西田基宏教授は、九州大学、群馬大学、東京大学、京都大学との共同研究で、心筋細胞膜に存在する、抗ガン剤投与により発現増加するTRPC3チャネルが、活性酸素を発生することで心筋細胞を萎縮することを発見。TRPC3チャネルを阻害する化合物が、抗ガン剤誘発性の心不全を軽減することを明らかにした。
 抗ガン剤を投与した動物の心臓で活性酸素を作る酵素(NADPH酸化酵素:Nox2)の数が増加し、筋力低下の原因となる酸化ストレスを誘発することが知られていたが、なぜ抗ガン剤でNox2の数が増えるかについては不明であった。研究グループは、細胞膜上に存在するカルシウムイオン(Ca2+)輸送タンパク質の一つTRPC3がNox2と結合し、その分解を抑制することを発見した。
(29年9月1日号)

金属状態と絶縁状態の間でゆっくり行き来する電子

 東京理科大学理学部の伊藤哲明准教授、京都大学人間・環境学研究科の前川覚教授、理化学研究所の加藤礼三主任研究員、東京大学工学系研究科の鹿野田一司教授らの研究グループは、有機物質中の電子が、波動性を持った金属状態と粒子性を持った絶縁状態の間でゆっくりと揺らぐ現象を発見した。
(29年9月1日号)

「電子状態を直接観測」分子軌道分布の可視化法開発

 名古屋大学大学院工学系研究科の鬼頭俊介大学院生、澤博教授、高輝度光科学研究センターの杉本邦久博士らの研究グループは、大型放射光施設SPring-8におけるX線回折実験により分子性結晶の分子軌道分布を可視化して定量分析する方法を確立。分子科学研究所、東京工業大学の研究グループとともに40年間解けなかった擬一次元性分子性結晶中の、実空間における電子状態の直接観測に成功した。

 分子性結晶では、分子間の相互作用や電子相関などのエネルギーが拮抗し、さらにそのしなやかさによって、多彩な電子物性を示すが、物質の性質(物性)を正しく理解するためには、その系でどのような相互作用が協力・競合しているかを明らかにする必要があり、そのためには精密な結晶構造と電子分布状態の情報が不可欠となっている。
(29年8月25日号)

「高エネルギー電子による光渦放射」精密観測成功

 分子科学研究所の加藤政博教授、広島大学の佐々木茂美名誉教授、名古屋大学の保坂将人特任准教授らの共同研究チームは、高エネルギーの電子が螺旋状の波面を持つ光渦と呼ばれる奇妙な光を放出する現象を精密観測することに成功した。光渦はレーザー光を特殊な光学素子を通すことで人工的に合成できることは知られていたが、今回の結果により、自然現象として光渦が生み出されることが実験的に示された。これにより、軌道角運動量を運ぶとされる光渦が宇宙や自然界でどのような役割を果たしているのか、これまで考えられたことのない問題が浮かび上がってきた。
(29年8月25日号)