化学同人が1951年から発刊してきた月刊「化学」が、通算889号で休刊となった。同号では、第2世代結晶スポンジ法などの化学の最前線をわかりやすく解説しているほか、化学つれづれ草、わかりやすい化学の伝え方、化合物の物語、みんなの元素学などの連載からは、科学的知見だけでなく、先達の経験など、多くのことを学ぶことができる▼インターネットの発展に伴って、論文の電子化が進み、研究者が紙の雑誌を手に取って論文を探すのではなく、データベースにキーワードを入力して、関連論文を探すようになった。若者たちは、子供の頃から紙に書かれた情報よりも、ネットに流通する情報に慣れ親しみ、本を読むときに電子書籍を選ぶことが多くなった。その結果、紙媒体に対するアクセスの数は大幅に減っていき、これまでも多くの科学系雑誌が発行を取りやめてきた▼雑誌や新聞で記事を読む際には、自分の関心事ではないものも目に入る。そのため、そこから新たな視点やヒント、あるいは今までになかった興味を得ることができる。しかし、検索では特定のものしか出てこないだけでなく、ニュースなどの表示順も検索履歴で最適化したものになるため、自分とは関連の少ない情報を目にする機会は減ってしまう。情報技術をベースにした効率的な情報収集は便利である一方、人間の視野を狭めてきた。こうしたことの弊害は、社会の分断や選挙行動、短絡的で極端な行動に現れているのではないか▼月刊「化学」は、研究者・技術者・学生の視野を拡げ、その学びに貢献してきた。それだけに今回のことは残念だ。しかし、廃刊ではなく、あくまで休刊である。復活に向けた取り組みに期待したい。
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