キンモクセイは秋に甘い香りを漂わせる橙色の小さな花を数㌢㍍の塊状に咲かせる常緑小高木で、庭の植栽として親しまれている。しかし少し調べてみると親しまれている割に不明なことの多い植物だ▼属名の「Osmanthus(オスマンサス)」はギリシャ語の「osme(香り)」と「anthos(花)」が語源で、和名はギンモクセイの花が白であることから、橙色を金にたとえて名付けられたらしい▼中国原産の雌雄異株で、日本にあるものは雄株だけと説明する記述が多い。一方でモクセイ属の学名の捉え方にばらつきがあり、中国のキンモクセイが日本と同じであるかは不明だという▼蝶の採餌行動を調べた広島大学の大村尚准教授の研究で、香り成分に含まれるγ-デカラクトンは、モンシロチョウが忌避する香りだという。この有機化合物はモモなどの香りに含まれる成分なので意外だ▼キンモクセイの橙色はカロテノイドに由来し、酵素で分解されることでスミレの香り成分でもあるイオノンを産生する。そのため一般的に橙色の濃い花は香りが強く、この酵素は午前中に活発に働くため、花の香りもこの時間帯に強いという▼トイレ環境が整っていなかった昔にトイレ付近に植えられていたのでそのイメージがついてしまったらしいが現在では払拭。香水などに使われ、良い香りとしてのイメージが定着している。生薬としては花に胃炎、低血圧症、不眠症に対する薬効がある▼夏の高温で開花が遅れ花期は長くなる傾向があるらしいので、今年は長く楽しめるかもしれない。
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