最近、ウェルビーイング(一人ひとりの多様な幸せ)という言葉をいろいろな場面で目にするようになった。では、科学技術とウェルビーイングについては、どのような関係があるのだろうか▼文部科学省の科学技術・学術政策研究所は3月、15歳から69歳までの男女合計6600人にアンケート調査を実施した。半数以上の人が、科学技術の進歩が健康状態、経済成長の分野でウェルビーイングの増進につながっていると答えている。2分野とも、19歳以下のジュニア世代、65歳以上のシニア世代で高い割合を示した。幸福度は、10点満点中6点以上が62%となったが、女性と比べて男性の幸福度は低い。また、他者との信頼関係を感じる機会が多いほど幸福度は高くなっている▼アンケートでは、科学技術の進展と各ウェルビーイング項目が正の相関関係を持っていることを示しているが、一方で、科学技術の発展に伴って、不安が高まっている項目も明らかにしている。遺伝子組み換え食品の安全性、地球温暖化や自然環境破壊などの環境問題、情報の氾濫、クローン人間や兵器利用などの倫理問題、自分が科学技術の発展についていけなくなること、一部の人しか新たな医療技術の恩恵を受けられないこと▼科学技術が自分と関係のないところで次々と進んでいくと、人は不安を覚える。しかし、その流れの中に身を置いたり、コミュニティに参加することができれば、他者との関係性を構築することができ、それが不安の払拭やウェルビーイングにつながる可能性がある。研究者コミュニティだけでなく、それらを支える業界などには、現役世代を取り込む参加型の科学コミュニケーションが求められている。
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