先日、知り合いから「(長年勤めてきた)会社を辞めることにした」という電話がかかってきた。退職金の積み増し分があったこと、3日間にわたる圧迫面接で疲れたこと、やりがいがなくなったこと、というのが主な理由だ▼最近では、様々な研修を行う会社は増えてきたが、再就職のためのキャリアサポートは、退職を決めた人に、再就職先を紹介する程度だ。ただし、これは正社員に限られる。契約社員や派遣社員の場合、普段からの研修はなく、一方的に解雇が通知され、「以上終わり」というのが現実である▼こうした一般社会の現状を見ると、アカデミアでの雇い止めが大きな問題ではないように感じるが、実は本質的な問題は別にある。アカデミックキャリアに入るためには、普通の人と比べて時間とお金をかけて多くの努力をしなければならない。そうなると人数は限られる。限られた資源なのだから有効活用しなければもったいないし、日本の競争力にもつながらない▼アカデミックキャリアでは、求められるのはスキルアップするためのサポートだが、文科省が公表した雇用状況調査では、74%の機関がキャリアサポートを行っていなかった。スキルアップのためのセミナーなどの開催や案内を行っているのは7・1%に限られている▼再就職のためのキャリアサポートを常日頃から行っている企業は少ない。これは高度なスキルが求められる仕事が少ないためだ。一方、アカデミアでは高度なスキルは必須だといえる。そうした人材が各機関の間を流動していけば、日本全体としての研究力向上にもつながっていく。常日頃からのキャリアサポートが結果的にはその機関のためになる。「情けは人のためならず」だ。
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