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コラム・素領域

2025年3月28日号

素領域

先日、伸び切ってしまった髪を切るため、近所の理髪店に行った。出てきたのは、72歳のご高齢ながら楽しい雰囲気が感じられ、カットの技術も優れている男性だった。いろいろと話をしていると、最近、6カ所目のがんが見つかったという。これまで10年以上、様々な抗がん剤治療や放射線治療、外科手術を行ってきたが、今回は緩和ケアに切り替えて、治療はしないのだと話す▼これまでの治療は非常につらかった。医者は生存期間が長くなるというけれども、またつらい思いをして、どこにも出かけられず好きなものも食べられない。そんな状態で長く生きる意味があるのだろうか。それなら現場に立って、お客さんと話をしながら仕事をして、楽しく生きて死んでいく方がいい。大学病院に通っていたが、現在は緩和ケア専門病院で痛みだけに対処している男性は、晴れやかに笑いながら話をしてくれた▼最近、高額療養費制度の財政危機が話題になっているが、大きな要因は2つある。不妊治療と高額な治療法が次々と保険適用されたためだ。ただし、新しい治療法や薬は効果は高いものの、副作用も大きい。結果として、副作用だけで効果がなかったり、効果があっても副作用が強すぎたりして、QOLを大幅に下げることもある。例えば、抗PD1抗体阻害薬は2割程度のがん患者にしか効果がない▼様々な研究グループが、様々な治療の事前スクリーニング法の研究に取り組み、多くの成果が生まれているが、実際に医療現場に届くには数年間もの時間がかかる。医療財政だけでなく、患者のウェルビーイングのためにも、スクリーニング法を早期に実装して、ある程度義務化するようにする仕組みの構築が必要だ。

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