メディアやSNSなどから様々な情報を得て、人は行動を決めている。情報の中には間違ったものや大げさに危機感をあおるものがあり、それを信じて科学的根拠に基づかない行動をとることがある。多くの人が理解しているものの、どの程度の影響があるのかを定量的に示すことは難しい▼東京大学の古瀬祐気教授と東北大学の田淵貴大准教授らのグループは、ワクチンに関する誤情報が新型コロナウイルス感染症のワクチン接種率、死亡率に及ぼした影響について、数理モデルを用いた反実仮想シミュレーションによって明らかにした▼日本における2021年の新型コロナによる死亡者数は約1万4000人だったが、誤情報の問題に現実よりもうまく対処しワクチン接種率を上げることができた場合は431人の死亡を回避でき、対応がうまくいかず接種率が下がっていたら死亡者数は1020人増えたとの結果が出た。厳しい言い方をすれば、誤情報によって431人が殺されたのだ▼最近では、レプリコンワクチンについて、「非接種者に感染する」といった誤った情報がインターネット上に流布したが、いくつかの論文を切り貼りしただけの内容に、ほとんど科学的根拠はない▼子宮頸がんワクチンの接種について、複数の報道機関がその危険性を訴え、結果として任意接種となった。各国が接種を進めてきた中、後追い接種もあるが、日本のある世代がワクチン未接種状態になっている。今後数十年という期間の中で、日本人女性の死亡率が増加した場合、誰が責任をとるのだろうか▼国民の科学リテラシーとともに、メディアやSNS、専門家、政府などは発信者としての責任を自覚することが必要だ。
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