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コラム・素領域

2026年1月16日号

素領域

毎年、世界で230万人が乳がんに罹患しており、国内でも年間約10万人の新規患者が生まれている。早期乳がん治療の第一選択肢は手術による切除であり、多くの患者が乳房の一部または全部を切除する。最近では乳房温存療法も広がってきたが、手術による傷跡や変形などもあることから、手術そのものを望まない患者も多い▼重粒子線を使ったがん治療は、がん病巣に集中して高い線料を届け、周囲の正常組織に当たる線量を低くできるほか、重粒子線は細胞のDNAの二本鎖を切断するなど修復困難なDNA損傷を与えることから、従来のX線治療に比べて2~3倍の効果があると考えられている▼QST病院(千葉市稲毛区)では、2013年から切除を行わずに早期乳がんを治療する重粒子線治療の臨床試験を開始し、19年までに第Ⅱ相臨床試験として12例の治療を行った。5年生存率は100%、5年局所制御率と無病生存率はいずれも92%と良好だった。細胞増殖関連タンパク質のKi-67指数が高い患者1例で治療した部位に再発が認められ、乳房切除術が行われた。今回の治験対象は60歳以上だが、現在、より若い患者の治験も実施しているという▼多くの女性にとって乳房の切除や変形などは、その後のQOLを大きく低下させる。今回の重粒子線治療による変形はほとんど見られず、一時的に表面が赤く腫れたりする程度だ▼重粒子線による乳がん治療の保険収載には時間がかかる。若い人の場合、進行が早いため、治療薬と重粒子線の併用が効果的だと考えられるが、今すぐ実施しても5年間は経過を見なければならない。最先端の科学技術力を活かすためには、新たな枠組みなどの検討も必要だ。

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