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コラム・素領域

2019年6月14日号

素領域

推理小説やドラマなどでは、主犯と思われる人物を追い詰めていくうちに、別の人物が主犯であったり、思わぬ共犯者が現れたりする▼これと同じようなことは医学・医療分野でも起こりえる。アルツハイマー型認知症の研究がそうである。認知症の原因の7割を占め、長らく症状を起こす主犯として考えられていたのがアミロイドβである。だが最近、このアミロイドβを取り除いたとしても認知機能の低下を防げないことが分かってきた▼そこで登場したのが中枢神経細胞に存在する微小管タンパク質の一つであるタウタンパク質である。脳内神経細胞に異常にたまり、その毒性から細胞を内側から壊し、記憶や感情を奪ってしまうのだ。そこまで分かっているのなら取り除けば済む話ではないかとなるのだが、そう簡単にはいかないのである。なぜか。脳内免疫細胞であるミクログリアが脚光を浴びている。脳脊髄中に存在するグリア細胞の一種で、タウタンパク質にとっての強力な味方でもある▼普段は、その細長い突起で、傷ついた神経細胞の修復や、アミロイドβなど細胞外に蓄積した過剰タンパク質などの除去といった役割を担い、人間にとってはありがたい存在なのだ。ところが、外からの刺激を受けると、活性化してその姿を変え、神経にとっての栄養因子や保護因子を放出し、同時に炎症性サイトカイン、活性酸素などの毒を吐き、神経細胞を傷害してしまう。しかも、たとえ小さな刺激であっても活性化し、長時間かけて過剰となり、簡単に沈静化することはないのである▼いずれが主犯で、いずれが共犯者なのかはまだ定かではない。ドラマのように逮捕、一件落着とはいかないかもしれないが、早急に研究が進むことを望みたい。

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