鉛はヒトでは血中濃度50~300マイクログラム/デシリットルで運動・認知機能障害を引き起こすと言われているが、WHOは「鉛の子供に対する安全レベルはわかっていない」としている。しかし、ナイジェリアでは2010年、鉛中毒で400人以上の子供が死亡し、1万人以上が治療を受けている。ケニアのダンピングサイト(ごみ捨て場)でも高濃度の鉛汚染が報告されている▼北海道大学の研究グループが、ザンビアのカヴウェ鉱床地域の住民1190人の血中鉛濃度を調査したところ、平均45・7マイクログラム/デシリットルであり、鉛鉱山の風下の住民の方が高いこと、乳幼児・児童の5人に1人は45マイクログラム/デシリットル以上であることが明らかになった。鉛汚染解決に向けた国際共同研究プロジェクトの代表を務める石塚真由美教授は「測定当時、学生などから『汚染レベルを測っただけじゃないか』と言われ、ハッとしました」▼プロジェクトでは、子供の血中鉛濃度が高いほどガン抑制遺伝子等のメチル化レベルが亢進すること、子供の鉛中毒が母親の生活の質を悪化させること、植生のない裸地で野生動物の鉛蓄積量が多いことなどを明らかにした。モニタリングシステムの開発や植生による粉塵防止の手法、現地で手に入る物資を使ったオンサイト修復など、汚染された環境を回復する技術も開発し、一部は企業が実用化した。これらの土壌改良手法やレメディエーション技術に関するレポートは世界銀行、ザンビア行政機関などが、政策に活かしている▼日本とザンビアの研究者、行政機関、民間企業などの参加者は200人を超え、大きなプロジェクトになったが、石塚教授の「この状況を改善したい」想いは変わっていない。
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