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コラム・素領域

2022年6月10日号

素領域

今、西之島に火山学者や動植物学者が熱い視線を送っている。西之島は東京の南約1千㌔㍍、父島の西約130㌔㍍の太平洋上に位置する無人の火山島だ▼2013年の噴火前までは、島の東南海面下に旧火口があったが、その西方海面下に出現した新たな火口から噴火したことで旧火口は埋め立てられた。環境省が16年10月に行った上陸調査結果などによると、鳥類ではアオツラカツオドリが定着しているとみられるほか、渡り鳥のアトリ、ハクセキレイ、昆虫はトンボやハサミムシ、ガの幼虫、植物はオヒシバやイヌビエなどが確認された▼これでこの島も落ち着いてくれればと思っていたところ、19年12月から20年8月にかけて起きた大規模な噴火にともない島は一変してしまった。人は近寄れないため、最近になってドローンにより行われた調査では、場所によっては厚さ5㍍ほどの火山灰が積もり、動植物などが全くみられない不毛地帯となってしまった。ただ、研究者によると「これはラッキーなことです。何が起これば生物が定着できるのか、ゼロの状態から解明していけるからです」という▼周辺の海底からは、大爆発の謎を解き明かすための重要な噴出物(スコリア)が発見された。このスコリアは大爆発の瞬間の記録を封じ込めた貴重なものだそうだ。地中深くのマグマが安山岩を絞り出すように押し出し、島を拡大させた。このことから大陸誕生のシナリオが見えてくるという。さて、西之島が噴火を繰り返すのか、それとも動植物が繁栄する島に変化するのか▼今後10年、100年、あるいはそれ以上見守り、研究を続けることで地球への理解がより深められるのだ。

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