専門家同士がお互いにプライドを持って評価しあうピアレビューの仕組みは、科学研究において最も重要であり、学術研究システムの根幹をなすものだ。ピアレビューは、研究費や人事、学位などの審査や論文の査読などで活用されており、その健全性こそが科学に対する社会からの信頼を担保している▼先日、福井大学の教員が論文査読者である千葉大学の教員とやり取りをし、論文への指摘に手心を加えたという事案が発覚した。本来、査読者は匿名で投稿者が査読に関わることはあってはならないことだ。両大学とも調査委員会を設置し近く報告書をまとめるという。事実であれば厳しい処分が必要である▼近年、研究不正や研究費不正が度々報告されているが、その背景には、研究費やポストのため、周りからの期待とすぐには出ない結果とのギャップによるプレッシャー、出来心など、様々な要因がある。研究費については、監査システムを導入したことで不正の件数は大きく減少したが、百円の不正を見つけるために1万円を使うかのような高コストな状況になっており、手続きの煩雑さは研究時間を圧迫している。同じようなことを研究不正でやろうとすると、どれだけコストがかかるのか想像もつかない▼研究不正が起こると、一部の人たちはそもそも起こらないような仕組みを作れと主張する。これは痴漢を防ぐために、電車に乗るな、あるいは1車両1人にしろと言っているようなものだ。一定確率で研究不正は発生するものだということを前提に、事案が発生した際には厳しい罰則を設け、また倫理教育に力を入れることが肝要であろう。角を矯めて牛を殺すことのないように。研究者を萎縮させてはならない。
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