生物個体ではなくそれが生息する場所の周辺で採取された水などに含まれる環境DNA(eDNA)から、そのエリアに存在する生物の種類や分布を把握できる環境DNA解析が近年注目されている。水中や土壌中など環境中に放出された生物由来のDNAの集合体を解析することで、そこに生息する生物そのものが発見できなくとも存在をモニタリングできる▼東北大学や日本郵船などからなる研究グループは、昨年6月に環境DNAを用いた主に魚類を対象とした生物多様性調査によるビッグデータ「ANEMONE DB(アネモネデータベース)」を公開、運用を開始した。海や川の水の環境DNAを解析し、結果を公表している。今年5月には山岳愛好家と協力して生物種を魚類だけでなく哺乳類、鳥類に拡大し、これらの種類や分布を明らかにするプロジェクトを始動した▼沖縄科学技術大学院大学などは、同技術が造礁サンゴの属レベルの識別が可能なことを今年3月に発表した。液体が連続的につながって切れ目のない海という環境では困難かと思われていたが、予想より局所的な分布が調べられることが明らかになった。サンゴの出す粘液が海面に浮かび、思ったより拡散しないためと予想されている▼信州大学や筑波大学などは水生昆虫について同技術を適用するための手法を今年1月に開発した。農研機構は水路や貯水池などで繁殖して通水障害を起こし在来の生態系に悪影響を及ぼす特定外来生物カワヒバリガイを同技術で検出することに一昨年成功した。被害拡大の防止や対策に利用する▼ほとんど非侵襲で環境や生物を調査できる同手法の発展に今後も期待したい。
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