先日、目的のものを手に入れようと、ある量販店に行ったまではよかったのだが、あまりにも商品の数が多く、結局買わずじまいに終わってしまった▼読者の中で同じような経験をした人もいることだろう。『選択の科学』の著者として有名な米コロンビア大学の先生は、選択肢が増えすぎると人は動けなくなると指摘している。人間は何かを検討するとき選択肢の情報を脳にインプットすることでエネルギーを使う▼そういった場面に臨むと、できるだけ労力を使わないようにしようとする本能から、選ぶ行為を避けがちになるのだそうだ。これが決定回避の法則と呼ばれるものだ。その場でいろいろ迷うのだが、結局いつもと同じもの、無難なものを選ぶという傾向になってしまう。これが現状維持の法則で、心理現象の一つである▼今の世の中、情報があふれるあまり、その波にのみこまれ、適切な判断ができにくくなっている。意図的に情報過多にすることで思考停止状態に陥った人間を巧みに利用しているともいえる▼仕事上で、あるいはプライベートで、決定を求められることも多い中、困った事態に陥らないようにするにはどのようにすべきなのか。専門家は日頃から選択肢を減らす癖をつけておくべきだと指摘する。自分の身のまわりで山積みとなって手が付けられない状態の中から、今すべきこと、後回しにできるものを具体的にランク付けするのもよいだろう▼要は、やりやすい方法を自分なりに編み出すこと。脳に余計なストレスをためないようにするのが肝心である。
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