統合イノベーション戦略の実現に向けて、政府部内の実施体制が構築されつつあるが、イノベーション実現にはその足腰となる基盤が強くなければいけない。そのために政府が力を入れているのが大学改革だ▼同戦略には、大学改革のメニューとして、経営の改善、若手割合の向上、研究生産性の向上、国際化の推進について、具体策を示している。例えば、大学ガバナンスコードの策定、大学の再編、年俸制の完全導入、民間資金の獲得に応じた公的資金の追加投入などである。6月に行われた大学改革に関する公開シンポジウムでは甘利明・衆議院議員が「大学は知的産業体になるべき。企業の経営論理を大幅に取り入れて大学を改革すべき」という趣旨の発言をしているが、これこそが政府が進めようという大学改革の方向性を示している▼この戦略に限らず、多くの場面で大学改革の必要性が訴えられているが、これは大学への期待の裏返しである。つまり、現在の社会的閉塞感や将来への不安を打破することができる可能性があるのは、もはや大学しかないということだ。しかし、こうした期待に応えられる大学であるだろうか▼最近、大学に元気がない。全体的に疲労感に包まれている。各研究室は、競争的資金の獲得競争と評価報告書の締め切りに疲弊し、大学本部と中核的な研究者は様々な大学改革プロジェクトへの申請書の作成や評価報告書のための会議で疲れている。研究の生産性が上がらないというのも当然のことであろう。これでは知的産業体にはなりえない▼競争力向上の足を引っ張っているのは、あまりにも多い改革プロジェクトであり、バラバラに行われている法人評価や研究プロジェクト等である。改革の前にまずはこれらを整理し、予算を減らさずに全体最適の観点で配分する仕組みを導入すべきであろう。
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