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コラム・素領域

2017年10月13日号

素領域

今年のノーベル物理学賞が重力波の観測に貢献した、米国の3人の研究者に贈られることが決まった。アインシュタインの相対性理論では、大きな質量の星など強力な重力場がある時、重力による空間の歪みによって光はゆっくりと進む。この空間の歪みが波のように伝わるのが重力波だ▼重力波は空間の歪みそのものであるため、電磁波や光などと異なり、様々な環境の影響を受けない。そのため、宇宙の真の姿を映す新たな観測手段として期待されている。2度の重力波観測に成功した米国のLIGOは、重力波天文学の世界を切り開いた▼さて、重力波観測は日本でも行われている。90年代には国立天文台にTAMA300が建設され、レーザー干渉計による重力波観測が行われ、世界の重力波研究をリードしてきた。その後、日本のプロジェクトはKAGRA計画に移行していくわけだが、その間に欧米の研究グループに追い越されてしまった▼なぜか。日本には優秀な研究者がいないのか、先端技術がないのか。そうではない。学術研究の大型プロジェクトに対する投資が、この十数年、右肩下がりに低下しているからだ▼国立大学法人化以降、運営費交付金が減り、科研費などの競争的資金は増えたが、トータルでの支出は低下している(関係経費の積算見直しなどで増えたように見せかけてきた)。一方、生物学などが、大規模化し研究コストが増大した。目先の成果を求める政府は、すぐに役立ちそうな開発に投資をシフト。こうしたことが相まって、純粋基礎への投資は低下していった。結果、KAGRAはプロジェクト経費を十分確保できず、科研費で支えられている▼最適な投資割合はどこにあるのか。今のところ答えはない。しかし、もう少し日本に学術への理解があれば、ノーベル賞の受賞者は違っていたかもしれない。

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