世界各国が研究開発投資を増大させ、システム改革を進める中、日本の論文における競争力はおしなべて低下しているが、その中でもいくつかの領域で、日本が競争力を維持している分野がある。その一つがガン研究だ▼2015~17年(3年平均)の生命科学領域におけるトップ10%論文の国際シェア順位を見ると、米中2強がほとんど1位と2位を独占し、行動神経科学など一部で英国が2位に食い込んでいる。日本は多くが5位以下だが、その中でガン研究分野だけが3位と健闘している▼どうしてこの分野はいまだに強いのか。JSTがガン&免疫の関連論文の推移を分析したところ、1996年までは米国に次いで日本は各国に大きな差をつけてきたが、97年以降世界中の論文数が増加し、2000年を境に急増した。その後、日本はドイツに抜かれ、イギリス、中国にも追い越された。濵口道成JST理事長は「80~90年代に多くの日本人が米国に留学し、90年代にはガン特別研究などで様々な領域の研究者が参入したことが要因ではないか」と分析している▼EUがファンディングする際、多国間の共同研究が前提となっている。国際共著論文は引用数が稼げるという面もあるが、それ以上に異なる文化的背景を持った人間が交わることで新たな視点や発見につながることが経験則としてわかっているからだ▼異なる分野や文化と交流することには、大きなエネルギーが必要だが、その閾値を超えたところに新たな発見や発展がある。日本の研究力を向上させるためには、国際共同研究を進めると同時に、国内の他分野との共同研究を促進する仕組みを構築する必要があるだろう。
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