研究現場でヘリウムの供給不足とそれに伴う高騰への危機感が高まっている。ヘリウムは原子番号2番の元素で、水素に次いで軽い。無色、無臭で、他の元素と反応しないため安全で、この性質からMRI、半導体をはじめとした様々な産業、医療、研究分野で用いられている▼大気中にもごく微量含まれるが、採算性を考慮し、天然ガスから分離・精製して生産される。主な産出国は、アメリカ、カタール、アルジェリア、ロシア、ポーランドだが、約60%はアメリカ、約30%はカタールが生産し、残り10%未満を他の国が生産。米国政府による払出価格が国際指標となっている。日本産業・医療ガス協会によれば、日本国内の販売量は年間1千万立方㍍前後で推移している▼近年は新興国の需要増大と、埋蔵量の減少、最大の産出国であるアメリカから海外への供給停止予定の発表を受け、供給不足が始まり、昨年末よりガス単価が約4倍も高騰したという▼これに対し、大学等研究機関では、研究用途のヘリウムの回収および再利用を本格化している。日本全国にはこうした回収、液化、再利用のための設備が約50程度存在し、東京大学物性研究では約90%の回収と再利用を達成したという▼一方で、研究用途のヘリウムは流通量の約4%にすぎない。約77%を占める産業用途は再利用されずに多くが利用後放出されている。大学等研究機関はこれに対し、資源の枯渇への危機感を強め、産業界にも回収と再利用を訴えている。日本はヘリウムを全て海外に依存している。限りある資源の持続的供給のためにも産業界の賢明な判断を期待したい。
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