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コラム・素領域

2020年5月22日号

素領域

新型コロナウイルス感染症への対応の一つとして、全国知事会などは9月入学制の導入を求めている。児童・生徒・学生の勉強の遅れを解消することや国際標準に合わせるためだというのが理由だ。日本若者協議会が実施したアンケートでは、小中高生全体では賛成37・2%、反対47%という結果となったが、高校生だけで見ると賛成が反対を上回るという▼日本教育学会は、今のまま単に9月にずらすと、私立大の授業料だけで1兆円という莫大な財政負担が生じる、義務教育開始年齢が一番高い年齢で7歳5カ月と世界でも異例の高年齢になることなどから、拙速な結論を出すべきではないと表明した▼もし今年度卒業生から9月入学を実施した場合、大学の受験者数は1・5倍程度になるため、定員が同じであれば、この世代だけが厳しい競争をすることになる。仮に特例として入学定員を増やした場合、増加する教員はその世代が卒業する4年後までの任期付きになる。負担を負うのは知事ではなく、学生や教員だ▼考えなくてはならないのは、何のために9月入学制を導入するかだ。勉強の遅れは他の手段で十分に取り戻せるし、1月入学のシンガポールや4月入学のインドは国際化を実現している。そもそも義務教育の遅れを取り戻すことが、地方自治体の基本的役割であるのに、その努力を自ら放棄するのは本末転倒であろう▼今回のコロナ禍では、日本の医療システムにバッファ(緩衝装置)がないことが現場のひずみを生じさせているが、人材育成や研究システムでも同様だ。生活様式の変容とともに、全体にゆとりを持つことが、災禍への備えになる。教育を政争の具にしてはいけない。

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