かむ力(咬合力)について意識したことがあるだろうか。咬合力とは、物をかみ締める顎の力のことで、最近の日本人はこの力が落ちてきているという▼食事の際に人がかむ力はだいたい自重と同じ、男性であれば60㌔㌘くらいの力をかけているというのである。この咬合力がいったいどれほど重要性なのか。日本の研究機関と大学の共同研究によりその一端が明らかにされている。歯科診療を受けた一般の人(50~79歳)1547人を追跡調査したところ、咬合力の低い人は高い人に比べて最大で5倍も、循環器疾患の新規発症率が高いことが分かったという▼つまり咬合力が心筋梗塞などと大きく関係していることになる。かむ力が衰えてくると、当然咀嚼力(食べ物をかみ砕く力)が弱くなり、軟らかいものばかり好んで食べるようになることは想像に難くない。実際、咬合力が落ちれば、緑黄色野菜や魚介類の摂取が少なくなる。食物繊維や抗酸化ビタミンなどの摂取も減り、栄養バランスが崩れ、ひいては循環器疾患が増えるというわけだ▼そればかりではない。最近の研究では、かむことは、脳の血流を増加させて脳の活性化を促すことが発表されている。特に、記憶をつかさどる海馬や集中力を制御する前頭前野の血流が増えて活性化する。かむ力が維持されている人は、認知機能が良好だったという報告もある。反対に咬合力の衰えは、認知症の発症リスクを高める。ことほどさように咬合力は大切なのである▼思い切ってかめないようでは人生を楽しめないではないか。咬合力の維持・向上に努めてもらいたいと思う。
© 2024 THE SCIENCE NEWS