地球近傍天体に関して興味深い実験が9月末、NASAを中心に行われた▼小惑星に探査機を衝突させて軌道を変えようというものである。地球近傍天体とは、地球に接近する軌道を持つ天体(彗星、小惑星、大きい流星体)の総称である。その中で、特にJAXA小惑星探査機「はやぶさ1」や「同2」により探査が行われた小惑星「イトカワ」や「リュウグウ」などは、宇宙の起源や地球の成り立ちなどを知るための貴重な科学的知見をもたらしてくれるありがたい存在である▼一方で、将来地球に衝突し、人類に存亡の危機をもたらすような天体もあるかもしれない。NASAが実施した衝突実験では、地球から約1100万㌔離れた小惑星「ディモルフォス」に探査機を衝突させ、小惑星の軌道周期を32分短くすることに成功した。この小惑星は、実際には地球に衝突する恐れはないのだが、衝突の恐れがある小惑星が現れたときに、まだ遠い位置にある段階で、少し軌道をそらすことができれば、最終的に衝突を回避することが可能となる▼隕石が地球と衝突するときのスピードは秒速数十㌔という高速に達するが、隕石のほとんどは空気との摩擦で燃えつきてしまう。有名なところでは約6600万年前に地球に衝突した小惑星によって恐竜が絶滅したとも言われている。このようなことは起こってほしくないものである▼今回の実験により、地球を防衛する現実的な方法としての可能性が示された。歴史上初めて惑星の軌道を変えたケースだけに、今後に注目したい。
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