政府は先月3日、20年ぶりに新紙幣を発行したが、もう実物をご覧になっただろうか? 国民生活センターなどは、新紙幣発行に伴う詐欺行為に注意をよびかけている。「旧紙幣は使えないから新紙幣と交換する」などといって紙幣をだまし取ろうとする事例の発生が予想されるという。日本銀行によれば昭和30年発行の5円札もいまだ有効とのことで、旧紙幣でも当分心配はいらない▼新紙幣ではデザインを変更し、偽造対策とユニバーサルデザインへの対応が強化された。特にユニバーサルデザインでは、指で触って紙幣の種類がわかる識別マークが大きく変わった。従来は券種ごとに異なるマークが使われていたが、新紙幣では11本の斜線に統一し、券種ごとに位置を変えて配置されている。そのほかアラビア数字の額面表示を大きくするなどの工夫が取り入れられた▼国立印刷局では視覚障害者のために券種を識別できる新紙幣対応のiPhoneアプリを無料配信している。カメラにかざすと券種を音声と大きな文字でアプリ使用者に教えてくれる。紙幣を印刷している国立印刷局の工場では、東京、小田原、静岡、彦根の4カ所で見学ができる(要予約)▼新千円券の肖像には北里柴三郎博士が採用され、野口英世博士に次ぐ2人目の科学者となった。北里博士は東京医学校在学中に予防医学を志し、ロベルト・コッホ博士に師事して、伝染病予防と細菌学の研究に取り組んだ。破傷風菌の純粋培養に成功し、その毒素に対する免疫抗体を発見、血清療法を確立するなどの業績をあげた。それだけでなく結核予防と治療に尽力。北里研究所を設立して多くの優秀な門下生を輩出し、日本医師会など各種医学団体や病院の設立に携わった▼北里博士のお墓は青山霊園にあり、北里大学の白金キャンパスには北里博士とコッホ博士を祀るコッホ・北里神社がある。お盆を前に北里博士の偉大な功績に感謝したい。
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