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コラム・素領域

2019年3月29日号

素領域

合成生物学が進展し、人工ゲノム・人工ウイルス・人工細胞などが手軽に作製できる時代になってきた。これにより、新たな社会的問題が生まれつつある▼クレイグ・ベンター研究所は2010年、人工的に合成されたゲノムの遺伝情報だけで増殖するマイコプラズマを世界で初めて作製することに成功した。人工生命体の創生につながるものとして世界中から注目を集めた。4000万ドルの研究費と15年の歳月を要した▼技術の進展により、ポリオウイルス・スペイン風邪株のインフルエンザウイルス・馬痘ウイルスの作製に成功したという論文も出され、デュアルユースに対する懸念が出てきた。コアになる長鎖DNA合成技術が大きく進展し、最近では合成メーカーも次々と立ち上がっている。ただし、DNAが長いとエラー率が高くなるなどの課題もあった▼ImPACT野地プロジェクトで立教大学の末次正幸准教授らのグループは、無細胞系でのDNAクローニング技術を開発した。多断片DNAの同時連結法(RA法)と長鎖DNAの等温増幅法(RCR法)を組み合わせたもので、ゲノムスケールの長鎖DNAを、配列による制限なしに短時間で合成できる画期的なものだ▼合成メーカーは国際コンソーシアムを形成し、危険な配列については合成しないことなどを決めているが、RA-RCR法を使えば、メーカーに頼らなくても簡単に作れるため、新たな懸念が生まれている。一方で長鎖DNA合成技術は、バイオ産業を大きく発展させる技術であるため、その振興には世界各国がしのぎを削っている▼日本発の技術が世界の合成生物学を変えようとしている中、その使い方や倫理などについても日本が主導していくべきだ。

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