岸田文雄首相は10月8日の第205回国会における首相就任後初の所信表明で「新しい資本主義」の実現を政策目標の一つに掲げ、それを実現する車の両輪の一つである成長戦略における第1の柱に「科学技術立国の実現」を据えた▼実現へ向けて実のある政策を進めてほしい。その具体策の一つとして、世界最高水準の研究大学を形成するために10兆円規模の大学ファンドの年度内実現をあげており、その準備がいま進行中である▼かつてない大規模な研究資金が大学に投資されることになるが、近い将来、世界トップ10の中にランキングできるような大学が一つでも出てくるようファンド運用の成功を期待したい。しかし、頂点となる研究大学を支援するだけでは足りない▼日本の研究力や科学技術力を強化するためには、研究大学全体のボトムアップを進める必要もあるのではないか。底上げによって、さらに上に挑戦できる可能性を秘めた質の高い研究者の層を厚くしていくことは重要である▼例えば、スポーツの世界でも日本の野球は国内選手層が厚く世界的にレベルが高い。今年の東京オリンピックでも金メダルを獲得し、米国リーグで活躍するスター選手も輩出している▼また大学だけに限らないことだが、興味深い研究をしているのに研究費が足りず、十分な活動ができないという研究者もいる▼そういうところにも研究資金が行き渡れば質の高い研究者が増え、底上げにつながっていくのではないか。競争的な資金ばかりでなく、そうした支援の在り方も検討してほしい。
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