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コラム・素領域

2022年11月4日号

素領域

東北大の出澤真理教授が発見したMuse細胞は不思議な細胞だ。点滴で全身投与すると疾患部位に到達し、素早く対象の臓器に分化し修復してしまう。研究グループは今回、なぜ、素早く正確に損傷した細胞に分化できるのかという一番重要な疑問に、貪食による因子のリサイクルであると結論づける研究結果を発表した▼Muse細胞を使った治験は、急性心筋梗塞、脳梗塞、表皮水疱症、脊髄損傷など7疾患で行われている。昨年5月には、脳梗塞において、職場復帰レベルに回復した患者が31・8%(プラセボ群は0%)という、高い効果が確認されたという結果が公表された。点滴投与は1度だけだという▼新しい医薬品や治療法には、副作用がつきものだが、この治験では目立った有害事象は確認されなかった。それどころか、数人の患者は白髪が黒髪になったり、薄くなった頭髪が復活したという。嬉しい副次効果だが、厚生労働省に提出する報告書では「有害事象」の一つとして分類されてしまう▼現在、Muse細胞を多く含む臍帯や臍帯血のうち、臍帯血だけが白血病等の治療に用いられているが、臍帯は廃棄されている。もちろん、大規模な治験を実施して安全性や効果を確認する必要があるものの、臍帯を活用できれば、より多くの患者が恩恵を受けられるようになるだろう。しかしながら、これもいくつかの法律で禁じされている▼有害事象の事例でもわかるように、日本がイノベーションを生み出すためには、様々な規制やルールを研究の進展に応じて変える必要がある。

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