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2025.10.16 その他

肝臓の糖新生基質 運動の強度で変化 ゆっくり走る「グリセロール」 速く走る「乳酸」 東北大が解明 肥満・サルコペニア対策に期待

【紙版の科学新聞10月3日号4面の記事に誤りがありました。該当箇所を訂正して全文掲載いたします】

東北大学大学院医学系研究科の金子慶三講師、堀内嵩弘特任研究員、片桐秀樹教授らの研究グループは、運動の強さに応じて肝臓で糖新生に使われる基質が異なることを明らかにしたと発表した。マウスの実験で、ゆっくり走る軽い運動にはグリセロール、速く走る激しい運動では乳酸を基質として肝臓が糖新生を行い運動を継続できていることがわかった。運動パフォーマンスの向上や肥満やサルコペニアの予防法・治療法開発につながると期待される。成果は「Nature Metabolism」誌9月18日付に掲載された。

動物の生体内には血糖値を一定に保つ仕組みが存在し、食事で得た炭水化物を分解してブドウ糖を得るほか空腹時や運動中などの急な消費には内在の基質を用いて肝臓で糖新生が行われる。運動中の糖新生の代表的な基質は筋肉の活動で生じる乳酸と脂肪分解により生じるグリセロールだが、違いは不明だった。
今回研究グループは運動中にどの基質をどのように使っているかを調べた。
トレッドミルを用いてマウスにゆっくり走る運動と速く走る運動をさせると、安静マウスと比較して、ゆっくり走る運動をさせているマウスの血液中ではグリセロールが、速く走る運動をさせているマウスでは乳酸が増加。それぞれの運動で異なる基質が使われている可能性が示された。
これを検証するため肝臓の遺伝子に介入してグリセロールから糖新生ができない(グリセロール糖新生不可)マウス、乳酸から糖新生ができない(乳酸糖新生不可)マウスを作製し、それぞれに2種類の運動をさせた。
その結果、グリセロール糖新生不可マウスにゆっくり走る運動をさせ、乳酸糖新生不可マウスに速く走る運動をさせるといずれも走行可能時間が短縮。激しい運動では乳酸、軽い運動ではグリセロールと、運動の強さに合わせ基質を使いわけていることがわかった。
一方でグリセロール糖新生不可マウスを速く、乳酸糖新生不可マウスをゆっくり走らせると、いずれも走行可能時間が増加した。
この仕組みがわかれば運動能を向上できる可能性があり代謝過程を解析した。
代謝の流れを促進するNAD+がNADHになり、NADHがNAD+に戻るという酸化還元サイクルに注目。グリセロール、乳酸それぞれの片方の経路が阻害されることで、NAD+が片方だけに供給され運動能が上がっている可能性を検証。遺伝子介入をしていない通常のマウスの肝臓でNAD+を増加させる操作を行った。
その結果、遺伝子介入をしていない通常のマウスをゆっくり走らせた場合に走行可能時間が50%増加、速く走らせた場合に走行可能時間が40%増加。運動の強さに関わらず運動能が向上し、マウスにおける既報のトレーニング効果を上回る効果がみられた。将来的に肝臓をターゲットにしたアプローチで運動能を向上できる可能性がある。
今後はどのようなメカニズムで基質を切り替えているのかを明らかにすると共に、運動パフォーマンスの向上や肥満やサルコペニアの予防につなげる手法開発を目指すという。

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