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2018.10.26 人物

【人物百花】女性初の南極地域観測副隊長 原田尚美さん

来月の南極観測船しらせの出航から始まる南極観測。原田さんは、第60次南極地域観測隊の副隊長および夏隊長として、隊全体のマネジメント(野外観測や物資輸送に利用するへリコプターのオペレーション、船を使った観測調整等)などを約4カ月務める。

有機物や微化石などで構成される堆積物から古海洋環境を復元する研究、北極や亜寒帯の海洋プランクトンなど海洋の低次生物の生態系の環境応答について研究している原田さん。今回は、マネジメントが主な役割になるということだが、もし調査活動ができれば、北極で見つけた特殊な性質を持った植物プランクトンと同種を、同じく極域である南極でも採取したいという。

原田さんの南極観測隊への参加は、研究者として大学院生の時に第33次隊(1992~93年)に参加して以来だ。「(この南極観測は)様々な分野の研究者がしらせに乗り込み、地質や生物、海氷・氷河などを対象に調査をします。皆が、しっかり成果を出せるように船側(運航を担当する海上自衛隊)と調整をすることが主な仕事です。研究者が納得できるよう調査をサポートしたいと考えています。南極観測隊の活動は、これまで経験してきた研究航海とは勝手が違うところが多い。なにより南極では、観測のためにまず生活を成り立たせないといけません」

日本では1957年に東南極に昭和基地(東オングル島)を開設、以後あすか基地、ドームふじ基地などを建設してきた。この東南極は、他国が多くの基地を持つ南極半島などの西南極の南極拠点と比べ、海氷が厚い一番過酷なエリアである。この地域で60年以上続く観測について「これまで観測隊が蓄積してきたデータセットは、私が研究対象とする地球環境の分野にとって非常に貴重です。北極に比べて南極の海氷の減少はそれほど騒がれていませんが、ひとたび氷塊が崩壊したら、インパクトは北極の比ではありません。昭和基地周辺は海氷が最も分厚く張りだしているエリア。近傍には他国の基地がないことから、日本しかモニターできていないデータセットを持っていることは強みです。南極観測隊のデータは、これからも非常に価値が高いと思います」

原田さんは、高校生の時に目にした科学雑誌で紹介されていた地球温暖化に興味を持ち、大学では大気中の微粒子の研究を、大学院では海洋堆積物を研究対象にしていた。大学に入ってから常に指導教官や隣接する研究室が南極と深い関わりがあったという。「大学院時代に先輩たちが研究船での体験を楽しそうに話をするので、早めに修士論文を仕上げれば、指導教官に研究船に乗せてもらうという約束をしました。就職先も決めていましたが、赤道で堆積物を採取する白鳳丸(現在は海洋機構所属の学術研究船)航海に参加させてもらい、あまりに面白かったので、帰ってからすぐ内定をもらっていた会社にお断りの連絡をして、大学院に残ることにしました。この航海で人生が変わりました」

そして博士課程1年目に第33次南極地域観測隊の隊員として参加することになる。当時のことを聞くと「隊で女性は私だけでした。今回は10人程度いますので環境はだいぶ変わりました。当時、女風呂がなく、浴場の時間を分けて入っていました。夕食の後にも外での観測があったのですが、私の入浴時間は夕食後すぐで、その後の観測で体が冷え切って大変でした。氷に穴を掘って海水や堆積物を採取するのは力仕事で、他の隊員に助けてもらいながらの毎日の観測はとても楽しかったです」

来年の第61次隊では海洋観測を中心とした計画が組まれる予定だ。「今年の重点海域であるトッテン氷河付近やケープ・ダンレー沖では、海水の水温・塩分や溶存酸素、流向や流速などの観測が計画され、南極深層水の形成メカニズムの解明に迫ります。来年の海洋観測にしっかりバトンを渡したいですね」。なお、第61次隊では、素案段階だがこの湾で海底堆積物を採取することも計画されている。

しらせでは、昨年から日本製のROV(水中ロボット)を導入し、海氷下の調査をしており、オキアミの大群を撮影することに成功している。「これまで生産性が低いと思われていたリュツォ・ホルム湾の生態系はとても豊かでは?と示唆する映像が撮れました。今年もそんな映像が撮れれば良いですね。この発見をきっかけに新たな生態系の研究プロジェクトが始まるかもしれません」

南極は、私たち社会の持続性を左右する気候変動の兆候を捉える重要な地域である。様々な観測データの蓄積、地球や宇宙の謎を解くためのデータやサンプルの採取、最も古い氷床の探査も加熱しており、南極はいまなお最先端の研究の場となっている。

【略歴】1967年2月生まれ。北海道苫小牧市出身。名古屋大学大学院理学研究科博士(理学)を取得。現在、海洋研究開発機構・地球環境観測研究開発センター・研究開発センター長代理。趣味は、9年前から始めた山登りで、これまで北アルプスや富士山など60ほどの山を完登。また書道は師範資格を持つ腕前。(了)

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