9月末にTimes Higher Education (以下THEに省略)の世界大学ランキングが発表されました。日本の大学全体のランキングとしては芳しくない結果が続いていますが、今回東京大学・京都大学がランキングを上げました。アジアにおけるランキングを国別に見ると、予想の通り中国の大学が軒並みランキングをアップさせ、清華大学がシンガポール国立大学を退け初のアジア1位に輝きました。韓国は日本ではあまり注目されてないようですが、一部大躍進をしている大学があり、アジアトップ30大学にランクインしている韓国の大学数は実は日本より多いのです。日本は米国や英国をベンチマークしがちですが、中国の躍進によりこれからの教育、研究の中心がアジアにシフトしていく可能性も高く、今後はアジアにおける日本の立ち位置をしっかり把握し、そこでのプレゼンスを上げていくことが必要です。
それでは、近年アジア圏内でグローバルプレゼンスを飛躍的にアップした大学は一体どんな戦略を持ち、どんな改革を行なっているのでしょうか。私達は2013年から2018年の5年間でTHEランキングを75位以上改善させたアジアの大学を7大学抽出し、具体的に調査を行いました。そのうち中国が4大学で残りは意外にも韓国の3大学でした。実際に韓国3大学のうち最も勢いのある成均館大学と名門私立大学である延世大学へ現地取材をして、近年どのような大学改革を行ってきたのか、担当者に話を聞いてきました。この3回の連載では、日本と比較的環境の近い韓国の大学改革の事例を取り上げます。第1回目の本号は韓国と日本の比較について議論し、次回からは2つの韓国の大学の大学改革の事例をとりあげ、詳しくご説明したいと思います。
日本と韓国の大学を比較する際の前提条件として、それぞれの経済規模や科学技術状況を見ておく必要があります。
経済規模を測るGDPは日本が韓国の3倍以上ですが、人口、科学技術予算、教員数は2倍程度です。論文数は韓国が日本の3分の2程度なので、単純な研究者数で考えると韓国の方が一人当たりの論文数は多い計算になります。気になるのが大学数です。韓国は専門大学(日本の短期大学に該当)が多く、このような大学を含めると400近くの大学が存在するのですが、4年制大学は200校程度です。日本の4年制大学は800校ありますので、比較すると日本の4分の1です。
一方、2019年のTHEアジア大学ランキングで比較すると、30位以内に韓国が7大学、日本が6大学ランクインしています。日韓の大学数に圧倒的な差があることを考えると韓国の大学はかなり健闘していると思います。また日本との大きな違いはランキングにおける私立大学のプレゼンスです。30位にランク入りしている韓国7大学の、実に4大学が私立大学です。日本の私立大学はアジア50位以内に1校もランクインしていません。今回インタビュー取材をした2大学も私立大学でしたが、取材で聞いたお話によると韓国政府からの私立大学に対する補助金が非常に少ないため、各大学が知恵を絞り独自で財政運営していく必要があることが、私大の改革力の源になっていることがわかりました。
政府から大学への投資が限られている韓国の状況は、今の日本の大学が置かれている状況と類似しており、生き残るためにありとあらゆる施策を打っている韓国の大学の事例を学ぶことは、日本に適した方法を模索するのに有効的であると思います。大学ランキングは一つの指標にすぎませんが、ランキングの大幅な向上は大学改革の結果を反映していると思います。アジアの他国の大学では何が機能しているのか、日本の大学が学べる事はないかを問いかけるべき時です。日本の研究力は疑うまでもなく世界トップレベルです。ただしその実力が、近隣諸国の成長の勢いの中で、変わらずに証明できているでしょうか?大学ランキングに関しては、日本国内では内向きで消極的な議論も多く見られます。この記事で海外の事例を紹介しながら、日本の真の研究力とプレゼンスを世界に示すための、前向きな議論のきっかけにできればと思います。
次回は成均館大学の事例について詳しくご紹介いたします。(了)
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