【上】運転時のよそ見防止を支援するICSのプロトタイプ 【下】駐車中に充電できるマトリックス・チャージング
オーストリアのランズフォーフェンにあるオーディオ・モバイル社は、ランボルギーニのオーディオシステムなど、自動車のオーディオやコンピューター、カメラ、通信システムなどの部品を自動車メーカーに供給する会社だ。1989年に創設され、売り上げの99・5%を輸出が占めている。
ヨーロッパにおける交通事故原因の第1位は「よそ見運転」。同社は、自動車のコックピットにおける「よそ見しやすさ」を数値化することで、各社の自動車の評価・コンサルテーションを行っている。各社から発売前のプロトタイプが持ち込まれ、同社のテストコースでテストが行われるのだが、屋外にあるにも関わらず、完全に隔離されたテストコースだという。トーマス・シュトッタンCEOは「各社のテストカーが持ち込まれ、このコースでテストする際には、航空管制局に連絡し上空8500㍍までを飛行禁止空域に設定してもらいます。これによって、完全に秘密が守られた状態でテストが行えます」と語る。
同社が最近、開発を進めているのがインタラクティブ・コミュニケーション・ステアリングホイール(ICS)だ。トーマスCEOは「一部のメディアがいうような、あるポイントで一気に自動運転車が導入されることはない。我々の予測では、年間12%が新しい車に置き換えられていき、運転支援システムが浸透していく。完全自動運転については、2030年代から少しずつ導入されるだろう。そのため、よそ見を減らす支援システムが重要になる」という。
ICSは、車のステアリングにスピードメーターやタコメーター、カーナビ、オーディオやエアコンの操作盤、シフトレバーなど、64の要素すべてを入れ込み、様々な操作をする際、視線をまっすぐから大きくずらさないようにするシステムだ。今はプロトタイプの段階だが、各自動車メーカーと交渉しているという。
もう一つ、同社が開発を進めているのがパーソナル・オーディオ・システムだ。運転席、助手席、後部座席2シートのヘッドレストにマイクとスピーカーを組み込んだもので、各人がそれぞれ別の音楽を楽しむことができるほか(他の座席の音楽は聞こえない)、走行音が大きい中でも、アプリを使って、特定の座席の人とスムーズに会話ができる。
トーマスCEOは「自動車の快適性を向上させるとともに、交通事故削減につなげていきたい」と話している。
グラーツにあるイーズリンク社は、15年に設立されたベンチャー企業だ。マトリックス・チャージングという充電システムを開発している。
現在、ガソリン車は1分20秒程度で満タンになり、約900㌔㍍走行できるが、同じことを電気自動車でやろうとすると、1分20秒で6200㌔㍗充電しなければならない。テスラのスーパーチャージャーが46台必要な計算になり、事実上、不可能だ。電気自動車の課題は、航続距離と充電時間、高価なバッテリーだと言える。
しかし、実際に900㌔㍍を一度に走る機会はほとんどない、というのは同社マネジング・ディレクターのハーマン・シュトッキンガー氏だ。「我々の調査では900㌔㍍移動する間に平均64回駐車する。私自身の行動を見てみると、朝、子供を学校に連れていき、コーヒーを買いに寄り、仕事、ランチ、仕事、自宅と車で移動するが、その間は駐車している。この駐車のタイミングで充電できれば、充電時間を意識しなくてもよいし、バッテリーの容量もそれほど多くなくてもよい」と話す。
この駐車時に自動的に充電するのがマトリックス・チャージングだ。駐車場の地面に充電ステーションの役割を担うパネル(40×40㌢㍍)を埋め込んでおく。自動車が駐車場に停車すると、自動車側からチューブが伸びてきて、空気でパネル表面を掃除した上でチューブが接触して自動的に充電する。「非接触の方法もありますが、コスト面や技術面で多くの課題があります。マトリックス・チャージングであれば、低コストで自動充電が可能になります」。
同社では現在、ヨーロッパとアジアのOEMメーカーと協力しており、各国の充電方式に対応したシステムを提供できるという。「世界で最もコスト競争力があると自負しており、国際スタンダードにしていきたい」という。
=第3回 了=
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