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2019.05.21 コラム

【私の主張】凋落が真剣に危惧される日本企業の科学・技術レベル (平山令明・東海大学先進生命科学研究所所長・特任教授)

日本の科学技術レベルの凋落傾向が危惧されてから久しい。科学技術レベルを支える重要な活動が研究・開発であり、それらは大きく分けて、大学と企業で行われている。ここでは、日本の企業が直面する研究・開発レベルの問題点に焦点を当てたい。

企業における研究開発活動は、その国の経済活動を左右する上で極めて重要であるとともに、大学側から見た場合には、学生、特に大学院生の就職先を考える上で非常に重要である。しかし、企業における研究開発の活動レベルについて議論されることは多くない。その実態がなかなか数字として表れにくいことも理由の一つと思われる。

少々乱暴かもしれないが、ここでは以下の3点に基づいて、研究開発の活性度を推し測ることにする。

第一は、研究所である。研究所は企業においても研究の拠点である。しかし、日本の多くの大企業において、いわゆる中央研究所がこの20年ほどの間に縮小ないし閉鎖されてきた。研究所の組織がなくなれば、企業内の研究活動は当然なくなるか鈍化する。また、研究開発をこれまで行ってきた多くの企業において、大規模な人員削減が最近続いており、この点も研究開発力の低下に響いていることは明らかである。研究組織が減衰している。

第二は、企業からの論文数である。日本全体からの論文数が、2016年には世界第6位まで落ちたことのショックはまだ尾を引いている。主要国では論文数は増加しているにも関わらず、日本では減少している。しかも、企業独自の論文数は90年代より4割も減少している。研究力が低下している。

第三は、博士の数である。ここでは特に論文博士の数に注目してみる。博士号を取っても給料が上がる訳ではないので、企業内で論文博士を取得しようとする場合、研究者の高い意識と企業の前向きの姿勢が必要になる。筆者が企業にいた70~80年代には、企業内で博士号を取り、その後に海外での研究経験を積むというルートが、多くの企業にあった。興味深いのは、大企業の研究所が衰退する前は、論文博士数が課程博士数を上回っていたことである。今や論文博士の数は90年代の半分以下である。さらにこの10年ほどの間、主要国では、博士の数は増加しているが、日本では例外的に減少している。研究を支える人材が減少している。

少なくとも、これら3点は、科学技術を活用することが企業活動上必須である日本企業において、その研究開発活動そして能力がともに低下していることを明確に示している。

研究開発を行うのは人である。研究開発の高度化・細分化が進む中で、それに当たる人材に求められる能力もますます高くなっている。かつては日本企業の中で研究者を養成してきたが、企業研究に適する人材養成を企業内で行うことは今や困難になりつつあり、人材数も減っている。企業での研究機会がなくなることは、大学院生の受け皿が少なくなることを意味する。従って、大学院進学希望者の数が減るのも当然である。少なくともここ10年間はこの悪循環が続き、企業および大学における研究・開発力を相乗的に弱め合ってきたと筆者は考える。

数字に表すことは難しいが、人材の質に関して筆者がさらに心配していることが2つある。

一つは、研究者・技術者の質である。高度の知識や経験だけでなく、気概、柔軟性、創造性そして科学・技術者としての誠実さが研究開発には必須であるが、これらの精神的要素を兼ね備えた人材が確保されているようには決して見えない。また、そのような人材を育てる(あるいは発掘する)努力はほとんどなされていない。

もう一つは、経営者の質である。企業内の研究所が衰退し始めた頃に、研究開発が必要な業種における経営者の質もちょうど変わり始めたことを、筆者は肌で感じた。研究や技術の内容に全く興味のない経営者が急に増加したのである。研究開発に愛着のない経営者は、特に規模の大きな企業でますます増加しているように見える。科学技術創造立国を標榜するためには、これら人材の質に関する問題もぜひ解決する必要があろう。

それでは、どうすれば傾きかけた研究開発に復元力を与えることができるだろうか? 人材の問題の解決は一筋縄では行かず、長期的な展望を持って解決していくしかないと思うが、手遅れになる前に適切な対応をする必要があろう。一方、短期的に復元力を与えるには、やはり資金の投入が少しは効果的かもしれない。日本における研究開発費の政府負担額は主要国の中で驚くほど少ない。主要国(中国や韓国も含む)における2015年の政府負担割合は20%を超えるが、日本ではわずか15・5%にとどまる。

日本企業における科学技術レベルをこれ以上低下させないためには、財政的な援助も含めた適切な対策を講ずることが急務であろう。日本企業における研究開発活動の再活性化は、大学の研究レベル向上にも必ずやつながり、そこに生まれる人材育成の好循環は、企業ひいては国全体の活性化に貢献すると信じる。

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