2023.02.20 研究・成果
分子科学研究所協奏分子システム研究センターの山本浩史教授、広部大地助教、総合研究大学院大学の中島良太大学院生らの研究チームは、同研メゾスコピック計測研究センターの岡本裕巳教授、成島哲也助教らと共同で、有機キラル超伝導体を用いた電子デバイスの最新技術を応用し、キラル超伝導体中に発生したスピン蓄積の観測に成功した。曖昧だったキラルな結晶構造とスピン蓄積との関係を明らかにし、磁石の表面でキラリティを分別できることを実証した。
研究グループは、キラルな有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2に電極を付け、交流電流を流す実験を行った。その時に、上下の電極を磁石にしておいて、磁石のN極・S極と、超伝導体から出てくるスピンの上下の関係を電圧としてモニターできるようにした。また、交流電流を流すことで、分子が溶液の中で自由に運動し、中の電子が揺さぶられる状態を再現した。そして低温で同超伝導体が超伝導状態になると、キラル超伝導体結晶の上下に、「互いにそっぽを向いた2つのスピン」が現れた。
さらに結晶の右・左を逆にすると、スピン対の内向き・外向きも逆になることが分かった。従って、キラル超伝導体のスピンを外から磁石で観察すると、確かに結晶のキラリティが判定できる、ということが証明できた。
今回発見した「互いにそっぽを向いた2つのスピン」は、時間反転によっても左右の反転する不思議なキラリティを表現していることになる。このようなことは分子や結晶のキラリティでは絶対に起きない。時間の向きを反転しても、右巻き分子は右巻きのまま、左巻き分子は左巻きのままだからで、このように時間反転で変わらないことを、物理学では「時間反転について偶」という。
従来、このような時間反転でひっくり返ってしまうスピンのキラリティと分子のキラリティは、ほぼ無関係と考えられていた。今回の実験で、分子のキラリティを外から区別するのに、時間反転で左右の入れ替わるスピンのキラリティを使ってもよいのだということが明らかとなった。これを研究グループは「奇の時間反転を持ったキラリティ」と名付けて、時間反転について偶ではないことを強調した。
山本教授の話「今回の結果で、磁石と相互作用するキラル分子の中で起きている現象を定性的に理解できました。今後は、数式を用いた定量的な理論が整備され、磁石を用いたキラル分子分別の高効率化が達成され、創薬や機能性分子開発の研究が加速すると期待されます。また、量子計算を含む超伝導スピントロニクスの分野においても発展が期待できます」
■CISS効果 キラル分子の中を電子が通過すると、そのスピンが電子の進行方向に対して平行(同方向)あるいは反平行(逆向き)にそろう効果。
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