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2024.01.19 人物

【人物百花】肺がんの新たな治療薬開発に取り組む益田武さん

切除不能な非小細胞肺がん患者対象
オプジーボとPAI―1併用投与治験を実施

「私が勤務している大学病院、その他の病院にも多くの進行肺がん患者さんがいらっしゃいます。進行肺がんに対する治療は進歩していますが、それでもなお、毎月、数名の患者さんが亡くなっています。このような状況から、進行肺がん患者さんをなんとか根治に導く治療方法の開発をしたいという思いが、新しい治療薬開発に対する大きなモチベーションになっています」と話すのは、広島大学病院呼吸器内科の益田武さん(診療講師)。

日本における肺がんの罹患数は、2019年現在で男性8万4325人、女性は4万2221人であり、死亡数(2020年)は男性5万3247人、女性2万2338人と男性の死亡原因の1位、女性でも2位となっている。肺がん患者の80~85%は非小細胞肺がんだ。

益田さんは、既存の治療法では十分な効果が得られなかった、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者39例を対象に、免疫チェックポイント阻害薬オプジーボとPAI―1阻害剤併用投与の有効性・安全性を検討するための第Ⅱ相医師主導治験を、治験調整医師として進めている。広島大学病院、岡山大学病院、島根大学医学部付属病院、鳥取大学医学部付属病院、四国がんセンター、広島市立広島市民病院の他施設共同治験。

「PAI―1は、私たちの血液の中に存在しているタンパク質であり、血液が固まること(凝固)を促す機能を持っています。また、肺が硬くなる肺線維症、間質性肺炎などの進行にも関与しています。今回の医師主導治験の責任医師である服部登教授が、肺線維症の進行にPAI―1が関与していることを明らかにしておられ、続いて、肺がんの進展とPAI―1の関与を検討する基礎研究を開始したことが、今回の治験を実施するきっかけになっています」

これまでの基礎研究で、PAI―1が肺がんの進展に関与すること、オプジーボと同じ作用を持つ抗PD―1抗体に耐性を持った肺がん細胞がPAI―1を高発現することなどを明らかにしていたが、臨床試験で使用できるPAI―1阻害剤が手元になく、研究が行き詰っていた。ここで、PAI―1阻害剤のTM5614を用いた臨床試験を肺がん以外の疾患に対して実施していた東北大学の宮田敏男教授、レナサイエンスと広島大学の間で共同研究契約が締結され、臨床応用可能なTM5614を研究に使用できるようなった。すぐに、非小細胞肺がんモデルマウスでその薬効を確認したところ、抗PD―1抗体とPAI―1阻害剤との併用投与は抗PD―1抗体単独投与より効果があることが確認され、臨床試験実施への道筋が拓けてきた。

「PAI―1と肺がんの研究が行き詰まっていた際、治験責任医師の服部教授と東北大学の宮田教授、レナサイエンス様のご指導とご支援を頂いたお陰で現在の医師主導治験を実施できています。さらに、初期研修医時代の先輩である広島大学臨床研究開発支援センターの平田泰三教授に後押し頂きました。また、AMED担当の高山和江URA(元林原)を通して東北大学の宮田教授との共同研究契約をマネージしてもらえました。今回の医師主導治験の実施には、多くの人のご支援とご縁により成り立っていると感じております」

今回の第Ⅱ相治験は、2026年12月まで実施され、その後第Ⅲ相治験に移行する予定だ。現在、進行性非小細胞肺がんに対する1次治療には、プラチナ製剤併用化学療法と免疫チェックポイント阻害薬が用いられているが、治癒に至る症例は少なく、2次治療として化学療法が行われている。しかし、無増悪生存期間は5か月と極めて短く、約5割の患者が3次治療に入ると想定されている。

「今回は3次治療としての治験ですが、将来的には、1次治療に適用できるようにすることで、多くの患者さんの命を救っていきたいと考えています」

 

<今年4月から医師の働き方改革が実施され、診療や教育などで忙しい大学病院の勤務医の研究時間はますます減少することになる。今回紹介した益田医師のような、情熱を持って医療現場で働く研究者を支援する仕組みの構築が求められている。>

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