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科学新聞の1面に掲載している『素領域』全文と、Web限定コラムをお読みいただけます。
先日、伸び切ってしまった髪を切るため、近所の理髪店に行った。出てきたのは、72歳のご高齢ながら楽しい雰囲気が感じられ、カットの技術も優れている男性だった。いろいろと話をしていると、最近、6カ所目のがんが見つかったという。これまで10年以上、様々な抗がん剤治療や放射線治療、外科手術を行ってきたが、今回は緩和ケアに切り替えて、治療はしないのだと話す▼これまでの治療は非常につらかった。医者は生存期間が長…
会社で使っているパソコンに、利用もしていないのに、金融機関や通信事業者、ネット通販会社などを装った不審なメールが最近多く届くようになった。かなり以前からあったが、減ったなと思っていると再び増える。どうも周期的に繰り返して送られてくるようだ。パソコンだけではない。スマホにもそうしたメールや電話が着信する▼自宅の固定電話にも詐欺まがいの怪しげなセールスや勧誘などの電話がかかってくる。自分のメールアドレ…
緑内障は不可逆的な視力障害につながる可能性のある進行性の視神経損傷を特徴とする眼疾患で、最新の統計では日本の中途失明の原因の第1位であることがわかっている▼慢性緑内障には眼圧の相対的上昇が関わるが、正常眼圧の場合も多く、障害は数十年という長い時間をかけて徐々に進行する。ほとんどの場合片目だけに起き、初期には視野の欠損は小さい。通常、人は両眼で物を見ることから視野異常が補われて気づかず、潜在的な罹患…
先日開かれた、研究大学コンソーシアムシンポジウムの中で、山本進一記念賞の授賞式が行われた。記念賞は、京都大学学術研究展開センター(現・総合研究推進本部)、表彰委員会特別賞は、人文・社会科学系URAネットワークと、筑波大学研究戦略イニシアティブ推進機構研究マネジメント室に授与された▼いまでは定着しているURAだが、導入当時は、その役割や位置づけが理解されなかった。故・山本進一博士は、名古屋大学、岡山…
今、アメリカのトランプ大統領が世界を困惑させている。ウクライナとロシアの停戦協議、イスラエルとパレスチナの和平案発表、関税引き上げなど様々である▼強いアメリカを取り戻すためだというが、自国のことしか考えない理解困難な行動に思える。今の世界情勢、とりわけ市場開放やグローバリゼーションは、アメリカが力を入れて進めてきたことである▼アメリカ経済にかつてのような勢いがなくなったといっても、今でもコンピュー…
東京タワーは東京都港区に電波塔として1958年に竣工し、自立式鉄塔としては2020年に東京スカイツリーに抜かれるまで日本一の高さを誇った。夜にはライトアップされた美しい姿を見ることができる▼定番のライトアップ(ランドマークライト)は180個のライトが使われ、夏バージョン(7~9月)と冬バージョン(10~7月)があり、夏は白、冬はオレンジを基調とした種類の異なるランプに変えられている。19年10月か…
米国国立衛生研究所(NIH)はX(旧ツイッター)上で、各研究機関が政府に請求できる間接経費の上限を一律15%にすると発表した。これにより年間40億ドルの予算削減になるという▼間接経費は、電気代や施設使用料、出張旅費や交通費、施設・設備の修繕費など、研究を進めるうえで必要となるものの、他の研究や事業にも関わるため、直接研究費から出せない経費を所属機関に支払うものだ。日本では、政府の競争的資金が30%…
インターネットやSNSの普及で日々の生活や仕事などの利便性は向上した。一方、SNSにおける偽情報や他人への誹謗中傷などの拡散、WEBやメールでのウイルス感染、詐欺・迷惑広告などが日常的に起きており、今や深刻な社会問題になりつつある▼背景にはスマホの速すぎる普及・発展があるように思う。総務省の令和5年通信利用動向の調査結果(令和5年8月末調査)によれば、世帯のスマホ保有率は90・6%である▼個人では…
生活習慣病は食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群として定義され、かつては成人病とよばれていた。1996年12月に成人病に変わる新たな疾患概念として生活習慣病の呼称を導入。厚生労働省は2009年まで毎年2月1日から7日までの1週間を生活習慣病予防週間として定め、この知識の普及啓発活動を行っていた。10年からは毎年9月の健康増進普及月間として実施している▼現…
広辞苑によると、会議とは「会合して評議すること。何かを決めるため集まって話し合うこと。その会合」と定義されている。第7期科学技術・イノベーション基本計画を策定するための会議が、内閣府に設置された基本計画専門調査会だが、どうも違和感がある▼メンバーは、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の有識者議員と、京都大学の内田由紀子教授、中外製薬の大内香統括、豊橋技術科学大学の小野悠准教授、エムスクエ…
昨年11月に防災庁設置準備室が内閣官房に設置された。石破茂首相が目指す防災省創設実現へ向けて第一歩を踏み出した形だ。2026年度中の発足を目指すという▼地震、津波、土砂崩れ、火山噴火、豪雪、台風など日本は世界有数の災害大国である。最近では昨年1月の能登半島地震、9月の石川県輪島市の豪雨がある。東海から東日本を襲った、19年10月の台風19・20・21号の被害も大きかった▼さらには東日本大震災や熊本…
ギリシャ神話の医神アスクレピオスは蛇が巻き付いた杖を持つ。「アスクレピオスの杖」は医療や医学の象徴とされ、WHOのシンボルマークにも使われている▼蛇咬傷は多くの熱帯~亜熱帯地域の公衆衛生問題だ。世界中で毎年5百万人以上が蛇にかまれ、8~13万人が亡くなると推定されている。WHOは2017年、顧みられない熱帯病(NTDs)の1つに蛇咬傷を追加した▼蛇毒の致死的特性は分子量の小さい特定のポリペプチドに…
明けましておめでとうございます。2025年の干支は乙巳(きのとみ)、動物ではヘビとなります。過去の乙巳の年には大きな変化が起こりました。例えば、中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我入鹿を暗殺した乙巳の変が起こり、天皇中心の国づくりの基礎がつくられた645年。平家が壇ノ浦で敗れた1185年。近年では日露戦争が終結した1905年も乙巳の年です▼日本の研究の状況を見ると、一部のスター研究者は光り輝いていますが、多…
最大震度7という能登半島地震による大災害で明けた2024年も間もなく終わる▼パリのオリンピック・パラリンピック、衆議院選挙と首相交代、米国次期大統領選挙など、今年も様々な出来事があった▼科学技術の世界では生成AIの開発利用が急速に進んだ。それに伴い、AIの開発利用をめぐる議論が世界中に広がった。一方ではウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナ、北朝鮮、中国などの軍事情勢の動向から、戦争への不安も…
魚へんに冬と書く「鮗」は「コノシロ」と読む。ニシン目ニシン科ドロクイ亜科コノシロ属に分類され、成長に伴って、シンコ→コハダ→ナカズミ→コノシロと名前が変わる。出世魚には珍しく成長に伴い価格が下がる。おいしいが小骨が多い。独特の風味があり、酢と相性が良いとか▼開いて塩と酢で締めたコハダをクチナシで黄色に染めた粟と交互に重ねて漬け込んだコハダの粟漬けは、五穀豊穣を願っておせち料理に用いられている▼日本…
新たな日本学術会議のあり方について、その概要が固まってきた▼特別な法人として設立し、主務大臣は、会員や中期計画の認可に関与しないが、毎年度の事業計画と監事については認可することで、国が財政的な支援を行う。外部評価委員については、会長が任命し主務大臣が認可する。選考助言委員会を設けて、学術会議が定める選考方針について意見を述べる(会員選考そのものにはかかわらない)。会員選考では、分野ごとに投票を行い…
近年は集中豪雨や台風、ゲリラ豪雨など、激しい雨の発生回数が増えている▼国交省データによれば、時間当たり降水量50㍉を超すような強い雨の年間発生回数が近年は約30年前の1・4倍に増加している▼水災害による年間被害額も平成30年が約1兆40450億円、翌年の令和元年が2兆1500億円と、それ以前の3~4倍にも拡大している▼そうした水害の対策として治水ダムの建設・再生、放水路や遊水地、ため池、雨水貯留施…
1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、それをさらに6つに分けた季節を表す二十四節気で、「小雪」は今年11月22日~12月6日にあたる。二十四節気は1年の太陽の黄道上の動きを視黄経の15度ごとに24分割して決められている▼「小雪」は冬の寒さが感じられるようになる「立冬」と雪が降り積もる「大雪」の間に位置し、江戸時代の松平頼救(太玄斎)による暦の解説書「こよみ便覧」では、寒くなって雨も雪として降るからと解…
日本分子生物学会の第47回年会が11月27~29日に福岡で開催される。かつては小さな学会だったものが、今や日本最大の生命科学系学会となり、同じ会員同士でも専門領域の異なる様々な人たちが集まる。こうした巨大な学会だからこそ、研究者同士の自主的な情報交換の場であった原点に立ち返ることが重要だ▼生命科学に限らず、自然科学系では異分野の融合や連携が急速に進んでいる。こうした異分野の界面でこそ、新たなイノベ…
気象庁の発表(10月28日)によれば、2023年における世界の主要な温室効果ガス濃度はいずれも観測史上最高を更新した▼気象庁が運営する世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)による観測データの解析結果である▼主要な温室効果ガスである二酸化炭素は、23年の世界平均濃度が420・0プラスマイナス0・1ppmで、前年より2・3ppm増加した▼同じくメタンは1934プラスマイナス2…
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