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2023.01.19 連載

【連載】医療用AI開発の最前線 東北大学の事例紹介          ②透析除水量を最適化 宮田敏男教授の取り組み

宮田敏男教授

 

人工知能(AI)の医療応用(実用化)のためには何が必要なのか。医療現場とデータサイエンティストやAI研究者らが連携しながら様々な医療用AIの開発を進めている東北大学メディシナルハブの事例を中心に探っていく。第2回は、個々の血液透析患者で学習し、適切な透析除水量を予測するAI開発を進める、東北大学大学院医学系研究科メディシナルハブの宮田敏男教授の取り組みを紹介する。

 

■■ ビッグデータと個別実態融合で精度向上 ■■

腎臓の機能が廃絶している末期腎不全患者では、週3回、1回4時間程度、血液透析を行い、血中の老廃物や余分な水分を取り除かなければならない(除水)。日本では現在、約35万人が生涯にわたって血液透析を受け続けなければならない。

十分な除水ができないと体液が貯留し心肺機能に障害を与えてしまう。一方、過度の除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良から意識消失まで多彩な症状を呈する。透析病院では通常数十人の患者に対して、1人の医師、数人の看護師や臨床工学技士という少ない医療従事者で治療を行っており、これら副作用が生じると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となる。透析中の血圧低下は、5~10%という高い頻度で発生するため、個々の患者で適切な除水量を設定することが重要となる。経験豊かな透析専門医は、除水量を、体重増加量、患者の状態などを総合的に考慮して、経験(暗黙知)で設定している。

宮田教授は「私はもともと腎臓内科が専門でした。メディシナルハブでは様々な医療用AIの開発を進めているので、過去の大量の医療データをAIに学習させ、適切な除水量を予測(透析専門医の処方を模倣)できないかと考え、2019年から、透析専門医、データサイエンティストやAI研究者らと開発に着手しました」と話す。

NEC北米研究所と独自に開発したAIであるDCCN(Dual-Channel Combiner Network)に、聖路加国際病院や民間の15透析医療施設から取得した国内患者数の約1%に相当する3000症例(透析回数80万件)の医療データを学習させてきた。現時点で、透析開始前に透析中血圧低下(20mmHg以下)の発生する確率を90%程度の精度で予測し、さらに医師が経験的に設定した除水量と100~200㍉㍑程度の誤差で予測するAIが開発できている。しかし宮田教授は「より医療現場で役立てるため、AI本来の利点である学習機能を向上させ、個々の患者で学習するAIの開発を試みている」という。

開発したDCCNは、80万件の透析データで学習し一般化されたアルゴリズムに基づき予測する。透析患者は年間150回ほど透析を受けるため、一般化されたアルゴリズムにさらに個人の透析データで学習させることで、精度の向上が期待できる。このような考えで、個別化学習DCCN(P-DCCN)が開発中である。

宮田教授は「人は機械と違い、個人差がある。医療も個別化に向かっている。AIの最大の欠点は、ビッグデータの中で個人の特性が消えてしまうことです。例えば、薬を服用する場合、1日3回と言われても、2回しか飲まない人もいれば、たまに忘れる患者もいるわけです。大量医療データで学習させたAIに、さらに個別の患者さんの医療データを学習させることで、患者さん個人の実態に合った予測が可能になると思います」という。

東北大学は、血液透析の国内外でのリーディングカンパニーであるニプロ、東北大学発バイオベンチャーであるレナサイエンスと共同研究契約を締結し、開発したAIの実用化を目指している。

患者に合わせて学習するAIは、個別化医療にも即した方向性であり、実用化されれば、医療の課題を解決するだけでなく、様々な分野のAI研究にも大きな影響を与えることになりそうだ。(了)

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