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2018.12.07 大学改革 連載

【寄稿】韓国の大学から学ぶ大学改革のヒント③           カクタス・コミュニケーションズ代表取締役  湯浅誠

近年アジア圏内で、グローバルプレゼンスを飛躍的にアップしている大学は一体どんな戦略を持ち、改革を行っているのか?前号では成均館大学(韓国)のお話をしましたが、今回も同じく韓国の延世大学校(ヨンセイ大学校、以下延大)についてです。

延大は日本でも知名度の高い私立大学として知られています。Times Higher Education (THE)の世界ランキングでは、2016年にTHEがランキングメソドロジーを大幅に変更した影響で301-350位まで順位を下げましたが、2019年は201-250まで順位を戻してきました。日本の大学ランキングも2016年から苦戦が続いていますので、延大のケースは参考になると思います。今回取材に応じてくださったのは大学経営戦略部門のヴァイスプレジデント(副学長)、キム・ドンノ教授。延大取材で分かったランキング大幅回復の秘密は、①ランキングの結果を踏まえた速やかな問題分析と行動までのレスポンス・タイム、②若手が活躍できる人事評価システムと環境整備、③海外に向けて延大を知らしめるPR戦略立案と実行力の3つでした。詳しくご説明します。

分析、実行までのレスポンスタイム

延大は2014年までTHEランキングで200位以内をキープしていましたが、2016年に大幅なランクダウンを経験しました。「私がこのポジションに就任したのがまさに2016年で、最初の任務がランクダウンの分析でした」とキム氏は振り返ります。「2015年からランキング手法が大幅に変更されたため、そのメカニズムを理解するところから始まり、学長に改善策を提案しました」。大学ランキングは大学の価値を測る一指標に過ぎないとしても、大学改革を後押しする契機になりうる、というキム氏。大学改革という観点から日本と韓国の違いについて伺うと、「自分自身が日本で客員教授を務めた経験から言えることは、日本と韓国のレスポンスタイムの違いです。日本の大学は規則やルールを重んじる傾向があると思います。それはそれでメリットもありますが、外部の新しい動きに対応する必要がある時に時間がかかってしまいがちのように見えます。韓国はその点レスポンスタイムが速いと思いますし、中国は更に早いスピードで動いています」。

人事評価システムと環境整備

延大が大学改革として最初に取り組んだのは学内の教員評価システムの変更でした。最近の大学ランキング指標では論文数よりも質を重視する傾向にシフトしており、世界的に大学の研究業績評価において数は問わず、掲載ジャーナルの質を重視する流れにシフトしています。延大もその流れにいち早く対応し、業績評価指標から論文数を外し、質による評価に変更した大学の一つです。

そして、研究者人事において延大が行った非常に重要な改革が、若手研究者の登用システムです。それまで他大学の中堅研究者が中心だった採用ターゲットを、ポスドクを終えたばかりの若手研究者(20代後半から30代前半)にシフトし、「退職者1名に対し2名の若手を採用する」という大胆なポリシーを打ち上げています。「若い時の方が研究アイディアがたくさんあり生産性が高い。私も博士号を取得した際はたくさん研究アイディアがありましたから」とキム氏は言います。

採用した若手研究者には研究に集中できるようテニュアトラックによる安定した雇用形態を用意し、最初の2年はセメスターごとに1科目のみの教育義務、そして採用3年後にサバティカル休暇も取得できるように整備しています。サバティカル休暇中には海外で研究するよう奨励することで、その後の研究者個人のキャリアにも、大学の国際共同研究数増加にも大きなプラスになる戦略です。

海外PR戦略立案と実行力

興味深いことに、延大が次に取り組んだのが海外PRでした。大学ランキングにおけるレピュテーションサーベイの結果から、本来持っている研究力が大学の国際的な評判に反映されていないと分析した延大。「その原因の一つは研究プロモーション戦略にあることを考え、すぐに学内でデジタルマーケティングチームを設立しました」とキム氏は言います。経営戦略部門直轄のデジタルマーケティングチームにはウェブ担当とコンテンツライターを配置し、海外向けのPR活動を積極的に行っています。注目すべきはヴァイスプレジデント自らが担当レベルと詳細なウェブ分析にまで関わり、トップダウンのアプローチで進めている点です。

また、多くの日本の大学にとって「どの論文を広報すべきか」を選ぶ以前に、広報部に教員から研究成果がリアルタイムで共有されない点が悩みの種だとよく聞きますが、延大では教員の研究成果データベースと広報戦略が密接に紐づいている点も注目に値します。学内で構築したデータベースに、学内の全研究者が出版された論文をリアルタイムで報告し、担当者が一つ一つの論文を調べ話題性があるものをプロモーションしていきます。学内での人事評価はこのデータにアップされている論文を参考にしています。このように学内システムを有効活用できている大学はかなり稀かと思います。

今回の延大の事例は、副学長に大学改革の大きな権限が与えられ、課題分析から改革の実行、評価までそのトップ自らが責任を持ち、現場と一丸となって改革を推し進めている好例だと思います。前回の記事で紹介した韓国の成大の事例も同様ですが、韓国の私立大学にはそれまでの古い慣習を変えることや失敗を恐れず新しいことに挑戦する姿勢があり、改革を実行に移すスピードが速い印象を受けました。私立大学への国費投資の制限がある中で短期間でシステムを変更し、企業や若手研究者の力を利用してユニークな改革を進める韓国の大学の事例は、同様の財政難に置かれた日本の大学にも刺激になるのではないでしょうか?

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