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2023.01.26 連載

【連載】医療用AI開発の最前線 東北大学の事例紹介      ③誤嚥性肺炎減らしたい 金髙弘恭教授の取り組み

金髙弘恭教授

 

人工知能(AI)の医療応用(実用化)のためには何が必要なのか。医療現場とデータサイエンティストやAI研究者らが連携しながら様々な医療用AIの開発を進めている東北大学メディシナルハブの事例を中心に探っていく。第3回は、嚥下機能が低下しているかどうかを、会話時の音声データから診断できるAIの開発を進めている、東北大学大学院歯学研究科の金髙弘恭教授の取り組みを紹介する。

 

■■ 「嚥下機能低下」日常の会話からリスク判定 ■■

日本人の死因で常に上位にあるものの一つが肺炎だ。特に高齢化が進んだ近年は、食事の際などの誤嚥が原因となる誤嚥性肺炎の割合は増加しており、死因となった肺炎の約7割が誤嚥に起因するという報告もある。予防方法や対策で少しでもリスクを低下させることが求められている。

現在、嚥下障害の診断方法として、嚥下内視鏡検査(VE)、嚥下透視検査方法(VF)が一般的に用いられている。VEは、鼻腔ファイバースコープをのどに挿入し食物の飲み込みを観察する検査で、VFはバリウムなどの造影剤を含んだ食事をX線透視下で食べてもらい、透視像を観察し、嚥下運動や適切な食形態を評価・診断する検査。いずれの方法も、専用の設備等が必要でどこの医療機関でも検査が実施できるというわけではなく、費用面も含め患者の負担が大きい。

金髙教授は「近年、誤嚥性肺炎で亡くなる方が増えているというのが実感です。東北地方は高齢化率が高く、宮城県で28・8%、秋田県は3割を超えたり、市町村によっては4割以上のところもあります。地域によっては中核病院に通うことが難しいこともあり、誤嚥性肺炎が重症化してから東北大学病院に運ばれる患者さんもいます。こうした方々が、自宅などで簡便に嚥下機能が低下しているかどうかを判断するために、日常の会話から嚥下障害になりそうかどうかのリスクを見分けるAIの開発に取り組んでいます。食事は人生の楽しみの一つですから、誤嚥が怖くて食事を楽しめないのでは、豊かな健康長寿社会を築くことはできません」と話す。

「嚥下」と「話す」で使用する器官は、舌や口腔・咽頭など共通部分が多い。言語聴覚士による発声発語訓練は、もともとは脳卒中や外傷などで言語機能が低下した患者向けに行われてきたが、近年は、摂食・嚥下障害の改善にもつながるとして、嚥下機能の低下した患者に対するリハビリとして実施され成果をあげている。

「東北大学病院では2019年に嚥下治療センターを開設して、耳鼻咽喉・頭頸部外科、歯科、リハビリテーション部門など、嚥下障害に関わる多くの診療科、多職種のメンバーが共同して検査と治療を担当しています。言語聴覚士の方と話をすると、最近は嚥下障害の訓練の方が多くなっているといいます。また議論をする中で、口腔と咽頭で機能的に使用される器官が、嚥下と会話との間で共通していることがわかりました。そこで嚥下機能評価の代替として、構音機能評価が活用できるのではないかと考えました」(金髙教授)。

言語聴覚士による構音評価では、単音節明瞭度検査、単語明瞭度検査、発語明瞭度検査、長文音読評価などを評価するが、1回に言語聴覚士5人による評価(聴き取り)が必要であるため、非常に長い時間が必要になる。実際の臨床現場で言語聴覚士5人の協力を得ることは難しく、実情の評価法では「客観性に欠ける」「信頼性が低い」などの課題もある。

金髙教授は「言語聴覚士は、発音や長文を読んでいるときの何かしらの歪みのようなものを評価しているのですが、それをAIで評価できるようにしたい。まず、第1ステップとして、健常者の発音を、性差、年齢群で分類して、AIで評価できることを確認しました。現在、患者さんのデータを取りはじめています。このAIは、もともと音の違いで不良品を見つけるために開発されているため、これまでの少数例での評価では良い結果が得られています」という。

会話時の音声データから嚥下機能障害を診断できるAIが開発できれば、言語聴覚士・医師・歯科医師など医療従事者の労働時間削減など、医療現場の負担軽減につながるだけでなく、重点的にケアすべき入院患者を特定することで、最適な医療の提供も可能になる。

金髙教授は「加齢によって筋力低下が始まると、口腔機能も衰えます。このオーラルフレイルにより食べられなくなると、そこから悪循環が始まり、全体的なフレイルになっていくという考え方が提唱されています。パーキンソンやALSの患者さんでも、確定診断前に口腔機能に衰えがみられた例もあります。多くの人は、少し体調が悪いのかなで済ませてしまっていますが、様々な病気になる前にAIでスクリーニングできれば、早期診断・治療に結びつけることが可能です。なるべく早く実用化につなげたい」と話す。

なお、このプロジェクトの実用化は、東北大学発バイオベンチャーであるレナサイエンスが協力して支援している。(了)

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