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2023.06.23 連載

「最先端研究とクラウド:AWSの挑戦」第1回 日本が誇るスパコン「富岳」

理研計算科学研究センターの松岡聡センター長

 

 

 

 

クラウドで仮想の巨大マシンを世界展開
より多くの研究者や企業などに活用の機会を

 

日本が生んだ世界に誇る理化学研究所(理研)が運用するスーパーコンピューター「富岳」。その世界最高の計算能力を広く社会に、そして世界に波及させて、最先端の研究開発や社会課題解決、産業利用に貢献していく。それが、理研の進める「富岳プロジェクト」の目標である。

理研計算科学研究センター(兵庫県神戸市)の松岡聡センター長は「富岳は従来の日本のスパコンとは違い、単に高性能な巨大スパコンというだけでなく、広い性能と広い応用を目指した設計目標で開発したスパコンである」とその魅力を強調する。そして、その富岳の裾野の「広さ」を実現するために着目したのが、クラウドにつなげていくことだとしている。

「設計目標とした広さというのは、様々な分野に応用できること、多くのユーザーに利用してもらえるようにすることで、その達成はスパコン1台でアプリケーションを動かすというようなことではなく、まさにクラウドと同じように、インフラあるいはプラットフォームとして富岳を展開していくことである」と説明する。

また、富岳の大きな特徴は、スマートフォンなどにも使われているのと同じARMアーキテクチャで作ったCPU(中央処理装置)を用いていることにある。これは、ARMアーキテクチャで動いている世の中の様々なソフトウェアを富岳でも使えるようにするという、設計思想に基づいたものだ。

富岳をクラウドにつなげるため、理研は二つの取り組みを進めている。その一つは「『富岳』のクラウド化」である。富岳にクラウド基盤としての機能やインターフェースを持たせて、民間クラウドで提供しているような柔軟な利用環境を富岳上に実現したり、他のクラウドと連携して利便性を高めたりする取り組みで、理研はこれをすでにサービス化している。

もう一つは、その逆方向の「バーチャル『富岳』」である。富岳でできることをクラウド上でもできるようにするという考え方だ。そして理研は、その研究協力相手に、アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)を選んだ。AWSは、2006年に他社に先駆けてサービスを開始して以来、世界で最も包括的かつ幅広く採用されたクラウドサービスを提供する企業だ。富岳で用いているARMアーキテクチャベースの「A64FX CPU」が、AWSクラウドの仮想サーバーAmazon Elastic Compute Cloud(AmazonEC2)上で利用できるAWS独自開発のARM CPU「Graviton3 CPU」と互換性があることも決め手だった。

AWSと協力することで、富岳プロジェクトで開発してきた最先端科学に用いる様々なアプリケーションなどの成果も、AWSクラウドを介し、世界の利用者すなわち学術機関と民間企業の研究者がより柔軟に利用できるようになる。

提供を想定している富岳の先端科学アプリケーションとしては、例えば大規模流体シミュレーションのCUBE(キューブ)がある。これは、一般にも広く知られた富岳による新型コロナウイルスの飛沫の広がり方予測にも使われ、スキージャンプの小林陵侑選手と他の選手のジャンプを比較評価した、富岳による空力シミュレーションにも用いられたアプリケーションである。そのほか、創薬などに用いられている生体分子シミュレーションのアプリケーションであるGENESIS(ジェネシス)のようなものもある。

では、「バーチャル『富岳』(富岳onAWS)」を実現することで、研究者や製薬会社などの企業にはどういうメリットがあるのか。「世界中で展開するAWSのクラウドを利用することで、必要な時に例えば何十万ノードというような大規模な展開でも可能になるので、富岳の先端科学アプリケーションなどの成果を、これまでのように順番待ちをすることもなく、多くの国内外の研究者や企業などが利用できるようになる」と、松岡センター長は期待する。

特に企業の場合、富岳を利用するためには研究内容を原則公開することを求められるが、「バーチャル『富岳』」により富岳アプリケーションが民間クラウドサービスで利用可能になれば、内容を公開する必要はない。企業は研究成果を製品開発などに即時に反映できるようになり、産業界などのユーザー拡大や活用事例の積み上げ、技術の普及拡大につながり、理研が目指す富岳の社会基盤としての定着、それによるSociety5・0社会への貢献という目標が達成できることになる。

さらに、AWSというグローバル展開のクラウドで富岳を展開することは、計算科学をはじめとした日本の科学技術の成果を世界に普及拡大することにもなり、日本の研究力強化にもつながる。一方のAWSにとっても、クラウドサービスを最先端研究領域に拡大するよいチャンスになる。「理研のような国家的な研究機関との研究協力は魅力的であり、AWSにとっても大きな挑戦になるのではないか」と松岡センター長は展望している。(了)

【この連載は全4回、隔週掲載の予定です】

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