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毎週金曜日発行

コラム・素領域 2022年

科学新聞の1面に掲載している『素領域』全文と、Web限定コラムをお読みいただけます。

2022年7月22日号 素領域

時間があったので東京ビッグサイトで行われた医薬品・化粧品に関する専門技術展「インターフェックスジャパン」をのぞいてみたら、旭化成のブースで面白いものを見つけた。水分子しか通さない膜でできたチューブに液体を循環させ、その周りで塩水を循環させることで、液体を濃縮するという装置だ。浸透圧を使うという原理も装置の構造もシンプルだが、医薬品の製造過程で必要となる濃縮作業が、加圧・加熱せずにできるため、各社か…

2022年7月15日号 素領域

暑い夏が今年は平年より相当早くやってきた。6月の気温では統計史上最高を示した地域が多かった。気象庁が7月1日に発表した「6月の天候」によれば、それでも上旬は涼しかった▼上旬の平均気温は北日本でかなり低く、東日本で低かった。西日本と沖縄・奄美では平年並みだった。しかし、その涼しさは下旬には嘘のように一変した▼各地で6月下旬としては異常な暑さとなった。太平洋高気圧に覆われて暖かい空気が流れ込みやすかっ…

2022年7月8日号 素領域

仕事上で、何らかの評価を下すことの難しさはやればやるほど思い知らされる。それが人物の評価となるとなおさらである▼参考にしたいのが「ゲイン・ロス効果」である。心理学の世界で有名な用語で、もともとマイナスの印象を抱いていた後にプラスの材料が示されると、そのギャップによってプラスの印象を強く受ける、もしくはその逆の効果のことだ。アメリカの興味深い実験でそれが実証されている▼実験者(サクラ)は、自分が持つ…

2022年7月1日号 素領域

6月末から夏の太平洋高気圧が北への勢力を強め、北海道を除き梅雨前線は活発にならなかった。気温の上昇も著しく、東京都心では観測史上初めて6月に2日連続の猛暑日を記録した▼続く暑さの影響で6月27日には東京電力の管内で初めて「電力需給ひっ迫注意報」が発令。同注意報は資源エネルギー庁が前日時点で電力の広域予備率が5%以下となる見通しの場合に前日16時を目途に出されるもので、3%以下の見通しの場合は警報に…

2022年6月24日号 素領域

専門家同士がお互いにプライドを持って評価しあうピアレビューの仕組みは、科学研究において最も重要であり、学術研究システムの根幹をなすものだ。ピアレビューは、研究費や人事、学位などの審査や論文の査読などで活用されており、その健全性こそが科学に対する社会からの信頼を担保している▼先日、福井大学の教員が論文査読者である千葉大学の教員とやり取りをし、論文への指摘に手心を加えたという事案が発覚した。本来、査読…

2022年6月17日号 素領域

ロシアのウクライナ侵攻による戦争が長引いており、エネルギー、食料、経済など世界的に影響が出始めている。戦争の長期化はさらなる新たな摩擦を引き起こし、何かをきっかけにしてより拡大へ向かう心配もぬぐい切れない▼日本は第2次大戦で敗北し、戦後の新憲法の下で他国との戦争をしない国になり、平和で豊かな国として発展してきた。1945年の終戦以降に生まれた人は、筆者もそうであるが戦争を全く体験していない▼総務省…

2022年6月10日号 素領域

今、西之島に火山学者や動植物学者が熱い視線を送っている。西之島は東京の南約1千㌔㍍、父島の西約130㌔㍍の太平洋上に位置する無人の火山島だ▼2013年の噴火前までは、島の東南海面下に旧火口があったが、その西方海面下に出現した新たな火口から噴火したことで旧火口は埋め立てられた。環境省が16年10月に行った上陸調査結果などによると、鳥類ではアオツラカツオドリが定着しているとみられるほか、渡り鳥のアトリ…

2022年6月3日号 素領域

沖縄気象台は5月4日に梅雨入りを発表した。昨年より1日早く、平年より6日早い梅雨入りとなった。5月末に日本気象協会が発表した予想によれば、関東甲信の梅雨入りは6月上旬だという▼梅雨時期は土砂災害をはじめとした災害が増加する。昨年7月には東海地方・関東地方南部を中心に停滞した梅雨前線の影響で、これら地方では記録的な大雨となり、静岡県熱海市で土石流が発生した。それだけでなく雨は交通事故も増加させる。首…

2022年5月27日号 素領域

日本の法体系や商慣習そのものが、挑戦者が育ちにくい環境を形成しており、一部の法改正や規制緩和だけでは焼け石に水ではないか▼日本の法体系は六法をベースに作り上げられているが、それらを改正することは非常に少ない。その代わり、特別法などを制定し、改正することで様々な問題に対処してきた。例えるなら、大きな幹があり、そこからたくさんの枝葉が伸びており、その枝先を剪定したり接ぎ木をしているようなものだ。この数…

2022年5月20日号 素領域

ロシアのウクライナ侵攻はいまだに終結が見えないまま、痛ましい紛争状態が続いている。一方で、今回の紛争ではテレビ放送やインターネットなどを用いた情報戦もすさまじい▼我々が見聞きするテレビや新聞報道では、ロシア側の一方的で残虐なウクライナ市民への攻撃などが伝えられている▼逆に、ロシア国内では情報統制が行われ、侵攻を正当化する情報や戦闘勝利の情報などが、ロシア国民に伝えられていると報道されている▼ロシア…

2022年5月13日号 素領域

コロナ禍の影響で、ステイホームに慣れてしまい、外に出ることにおっくうになってしまっている人もおられるだろうと思う▼そのことが健康面で危険信号となるというデータを紹介しよう。日本人成人は1日平均7時間座っているとか。これは世界一の長さだという。米国の大学の座位行動に関する研究によれば、座ってばかりいると、心臓病で6%、糖尿病7%、大腸がん10%とそれぞれ罹患するリスクが高まるそうだ。逆に座りっぱなし…

2022年4月29日号 素領域

文部科学省は今年2月に初等中等教育段階の教育政策の改革方針を示すものとして「教育進化のための改革ビジョン」を公表した。コロナ禍を契機とした生活様式の変化とICT機器の利用による価値創造的な学びの提供による誰一人取り残さず個々の可能性を最大限に引き出す教育と、教職員の本務に集中できる環境整備の2つを基本理念としている▼多くの課題は予算の補充で解決できそうではあるが、これまで初等中等教育への投資は軽視…

2022年4月22日号 素領域

日本の人口の80%が新型コロナのmRNAワクチンを2回接種しており、国内外の臨床データからも、一定の感染防止効果と重症化予防効果が確認されているにも関わらず、いまだに、ワクチンは危険だから打つのはやめよう、といって駅前で主張している人々や街宣車のようなものを見る▼彼らの主張を聞いてみると「○○先生(医師)が言っていた」「とにかく怖い」といった情緒的なものが多く、論拠は非常に弱い。また「安全性が証明…

2022年4月15日号 素領域

4月5日に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書第3作業部会報告書では、世界全体のCO2をはじめとした主要な温室効果ガス(GHG)の人為的排出量が、依然として増え続けていることが改めて示された▼世界各国が取り組む温暖化防止対策には目標とする1・5度Cの上昇を止めるため、さらに大きな努力が求められている。気象庁の各種データ・資料から「日本の年平均気温偏差の経年変化(189…

2022年4月8日号 素領域

騒音と雑音。意味が似ているふたつの言葉だが、そのとらえ方として共通する認識は「うるさく、不愉快な音」となるだろう▼この好ましからざる音に関して科学的に興味深い研究成果が出されている。騒音についてだが、ヨーロッパの大学の研究で、騒音の大きい場所に住んでいる人は、相対的に体脂肪の量が多くなり太りやすくなるという結果が出た。騒音による刺激を受けると、ストレスによってストレスホルモンのコルチゾールが増える…

2022年4月1日号 素領域

今年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は世界に衝撃を与え、先行きの見えない状況が続いている。国内外への避難民は1千万人を超えたという。その中で日本ユニセフ協会や日本赤十字社、国連UNHCR協会、在日ウクライナ大使館、国際NGOだけでなく、各自治体なども寄付を呼びかけ支援の輪が広がっている▼国内の大学でも複数の大学が学生等の受け入れを表明した。日本経済大学はウクライナの避難民学生の受け入…

2022年3月25日号 素領域

昨今、大学と企業との共同研究が増加しているが、多くの大学ではあまり儲かっていないようだ。これは政府の競争的資金と同じような経費の計算をしているためだという▼政府系資金では、直接経費+間接経費30%が研究費総額として計上される。つまり直接経費が1000万円であれば、総額は1300万円。一方、産学共同研究の場合、直接経費の中に関わる教員や学生の人件費を含めることができる。しかも教員の人件費は能力や実績…

2022年3月18日号 素領域

21世紀に入ってもなお、人類は互いに国益などで争い武力による争いを続けている。第2次世界大戦で、多くの国のたくさんの人々が命を失ったが、その後も戦争はなくならず、地域紛争やテロが相次いで起きている▼今回のロシアによるウクライナ侵攻では、ロシア側が核攻撃をもにおわせて不気味な状況となっている。しかし、核攻撃は絶対に現実になってはいけない、人類最大の脅威である▼世界の主要国の一つであるロシアの大統領が…

2022年3月11日号 素領域

発生からしばらく経過したが、1月15日に南太平洋のトンガ諸島で大規模な海底火山の噴火が起きた▼噴煙は高度3万㍍に達し、半径260㌔に広がった。その爆音たるや南太平洋全域に及び、トンガから800㌔離れているフィジーの首都スバでも、雷鳴のようにとどろいたという。テレビの映像での印象ではあるのだが、その規模の大きさは想像に余りある。噴火の影響により15㍍以上の津波がトンガを襲い、日本でも岩手県や鹿児島県…

2022年3月4日号 素領域

カメラやセンサーの小型化・高感度化に伴うバイオロギングの発展は目覚ましく、これまで知られていなかった野生生物の生態が明らかになってきている。バイオロギングは野生生物に小型の行動記録計(データロガー)やGPS装置などの機器を装着し、その動物の生態や周囲の環境情報を記録する手法で、動物を捕獲して回収したり、機器のみを回収したりすることによって人間が観察することのできる範囲外の情報を取得できる▼最初は主…

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